東京大学大学院 情報学環・学際情報学府 The University of Tokyo III / GSII

研究Research

April 15, 2022

【教員インタビュー】久野 愛准教授(後編)An Interview with Assoc. Prof. HISANO, Ai (Part 2)

「当たり前」に疑問や好奇心を持つ

感覚史研究を学際的に取り組む久野愛先生のインタビューです。後編では、今後のご研究の展望と、学生に期待することを伺いました。(前編はこちら/ Continued from Part 1)
*日本語記事は抄訳に続く(Japanese follows English)

 

An interview with Associate Professor Ai Hisano (Part 2)

In the second part of the interview, conducted on December 20, 2021, Associate Professor Hisano talked about her research plans and what she expects from students.

Having received much of her academic training in the US, Assoc. Prof. Hisano publishes her research mostly in English. This includes the book based on her Ph.D. dissertation, Visualizing Taste: How Business Changed the Look of What You Eat. Publishing in English enables her to reach a wider academic audience and contribute to discussion in the history of the senses and emotions which is currently popular in the US and Europe. On the other hand, when writing for non-academics, she has chosen to use Japanese, as is the case with her recent shinsho.

In forthcoming research, Assoc. Prof. Hisano plans to examine the historical construction of the senses and emotions, focusing especially on the influence of industrialization since the nineteenth century, including the introduction of artificial perfumes, plastics, food processing, and repurposed military technologies. As one concrete example, she cites artificial textiles, such as nylon and polyester, which have altered the tactile sensation and visual design of clothing.

In addition, Assoc. Prof. Hisano plans to investigate the transformation of the environment and spatial organization in the twentieth century, including the appearance new types of urban buildings, commercial spaces, and housing projects, all of which have had a significant impact on our senses and emotions. While her research remains principally focused on the US, she intends to introduce comparative cases from Japan and Europe. She looks forward to cooperating with other faculty in the III, especially those studying robotics and sensors, in interdisciplinary projects that intersect the boundary between the natural and social sciences.

Assoc. Prof. Hisano hopes that students will be motivated by their passions when selecting their own topics and have the courage to question that which is usually unquestioned. She places a heavy emphasis on creativity, since creativity is essential for the discovery of gaps in existing research and the development of new research approaches.

While recognizing that the division of academia into disciplines sometimes makes it difficult for those conducting interdisciplinary research to find a place to publish their work, Assoc. Prof. Hisano hopes that students will not be too bound by such divisions when choosing their research topics.

 

– 博論をもとにアメリカでVisualizing Taste: How Business Changed the Look of What You Eat を出版をされ、日本では新書『視覚化する味覚–食を彩る資本主義』をお書きになりました。論文も英語で書かれたもののほうが多いですね。日本の文系の研究者はまだまだ英語で論文を書くことは必ずしも多くないですが、文章を書くにあたって言語の使い分けはどのようにされているのですか? 

今回の新書は、研究者以外の広い読者層の方々に読んでほしいと思って出したので、それを意識した書き方をしました。食べ物は、すべての人に関わる問題だと思うので、トピックとしては比較的書きやすかったかなと思います。日本で出すなら新書で出したいと思っていたところそれが叶いました。

Ph.D.をアメリカで取ったため、学術的なものを書いたり読むトレーニングを基本的に英語でやってきたこと、また読書の数が多いという理由から、研究論文や研究書はなるべく英語で出したいと思っています。今やっている感覚や感情の歴史の研究は、アメリカやヨーロッパで特にさかんに議論されているので、そういうところへの貢献というか、そのディスカッションの中に入りたいという思いもあります。日本語で出すと、日本語がわかる方には読んでいただけても、かなり読者を絞ってしまうことは否めません。でも逆に日本語で学術的なものを書くのに苦労しています。新書を書くときも実はすごく苦労しました。かといって英語がすごくできるわけではないのですが、やはりトレーニングの影響は大きいと思います。

 

– 最新のご研究と、これから学環で取り組んでみたいご研究についてお聞かせ下さい。

ちょうど研究の変わり目の時期で、博論で始めた食べ物の色をめぐる研究を2019年に英語で出版し、つい最近、新書を出したことで、一区切りついたところです。これを広げる形で、今は感覚と感情の歴史に取り組んでいます。大きく言うと、感情とか感覚がいかに歴史的に構築されてきたかということを研究したいと思っています。特に興味があるのは、19世紀末以降に起こった産業化や工業化の影響で、経済的にも私たちの生活が大きく変わったことが、如何に私たちの感覚や感じるものに影響があったかということです。19世紀末の人工香料の登場、プラスチックの登場、フォードの大量生産など、また、戦争によって進む技術の民間転用、また、戦時の物資欠乏と戦後特需のギャップが生み出すものが影響を及ぼしたと考えられます。

著書でも少し触れていますが、具体的には、食品産業の発展によって、食べ物が変わったり、ファッション業界では、衣類の大量生産、ナイロンやポリエステルなどの人工的な繊維の登場で、肌に触れる感覚が変わったと思います。見た目もいろんなデザインが登場し、視覚的にも変わったと思いますが、そういった新しい商品が私たちの生活を大きく変えた。その中で、感覚、感情に如何に影響があったのかということを見たいなと思っています。

もう一つは、環境、空間の変化。日本で言うと20世紀前半の東京タワーや三越百貨店などの登場や新興住宅地の影響で人々の感覚感情がどのように変化したのかを研究したいと思っています。研究対象地域としてはアメリカを中心に、比較対象として日本や欧州も含め、ニューヨーク、東京、ロンドン、パリなど比較的地理的に絞ったで都市の生活の変化を考えています。まだ漠然としていて、まずはインダストリアルデザインの資料を集めていますが、具体的には落とし込めてはいないというのが現状です。

情報学環には、理系文系両方の先生がいらっしゃるので、将来的には、可能であれば工学系のセンサーやロボットの研究をされている先生方と分野を超えた研究ができると面白いなと思っています。

 

-これからゼミ生、そして学府の学生に期待することは?

研究にはパッション、熱意があることが重要です。それが原動力になります。それから、当たり前を当たり前と思わないこと。ちょっとしたことにもヒントがあって、何にでも疑問を持つことが、自分の研究のトピックを見つける事にもつながるし、調査の方法や答えを見つけるきっかけになるのではないかと思います。

そして、クリエイティブであることを大切にしてほしいです。私も博士の学生の時に、クリエイティビティが研究には必要だって先生に言われたんですけれど、自分の研究とクリエイティビティがどう繋がるのか、その時はうまく理解できませんでした。当時は研究というものは、過去の研究の蓄積があって、そこからまだ解き明かされてないこととか、人がやってないこととか、新しい問いに答えるもののように思っていました。でも、それを思いつくとか、新しい手法を考えることは、すごくクリエイティブな作業だといえます。クリエイティビティは研究に不可欠で、学生にもそれを常に意識してほしいなと思っています。

また、学際的な研究をすることについてですが、特に学生の時には、どこに自分の論文を出せば良いのか悩ましいという面はあると思います。先日も、修士の学生にそういう相談を受けました。どのディシプリンにすればいいのかわからないって。大学院のときは、たしかに自分の研究を構成する必要もあるとは思いますが、自分がやりたいこと、自分がここを明らかにしたいという問いが最初にまずあって、それを解決するためにはどうすればいいかということを考えて、そこからあてはまる学会なり、分野を見つけるほうが理想的にはいいのかなと。なので、場合によっては、最初からあまりディシプリンにこだわらなくてもいいのではないかと思っています。

 

企画:ウェブサイト&ニューズレター編集部
インタビュー:山内隆治(学術専門員・編集部)
構成・写真:神谷説子(特任助教・編集部)
抄訳:デイビッド・ビュースト(特任専門員)

 


主担当教員Associated Faculty Members

准教授

久野 愛
  • アジア情報社会コース

Associate Professor

HISANO, Ai
  • ITASIA program