April 8, 2022
【教員インタビュー】久野愛 准教授(前編)An Interview with Assoc. Prof. HISANO, Ai (Part 1)
「当たり前」に疑問や好奇心を持つ
感覚史研究を学際的に取り組む久野愛先生のインタビューです。学環着任までのこと、今後のご研究の展望と、学生に期待することを伺いました。 (取材日:2021年12月20日)
*日本語記事は抄訳に続く(Japanese follows English)
An interview with Associate Professor Ai Hisano (Part 1)
In the first part of the interview, conducted on December 20, 2021, Associate Professor Hisano talked about the background to her research on the history of the senses.
Assoc. Prof. Hisano obtained her bachelor’s degree in American studies from the Faculty of Arts and Sciences at the University of Tokyo. From her classes there, she developed a strong interest in cultural studies, social history, and cultural history. Since studying for her master’s degree, she has focused especially on the history and culture of food. For her PhD research at the University of Delaware, she studied the cultural significance of color in food. Her interest in color later broadened to include other aspects, such as the significance of color in race relations in the US.
While history remains her home field, she has conducted research from a broad interdisciplinary perspective including culture, technology, and business. This suited her well for the Interfaculty Initiative in Information Studies, which she joined as a faculty member in April 2021. Her research has been motivated by a desire to reveal how things that we take for granted in daily life are actually the result of a long process of historical construction.
Her interest in American culture began when she was still a child. She spent a year at a high school in Texas not far from the Mexican border, where she witnessed great disparities of wealth and ethnic diversity. For her graduation thesis at the University of Tokyo, she chose to study the food culture and business strategies of Greek immigrants to the US. Unlike other immigrant groups who opened businesses selling their native cuisines, Greek immigrants operated dinners catering to a broader clientele providing stereotypical “American” cuisine such as hamburgers and pizzas. Her thesis examined the reasons for this business strategy and its relation to the immigrants’ ethnic identity.
After receiving her master’s degree, Assoc. Prof. Hisano worked for two years at a printing company where she was assigned to the technological division. This enabled her to see the importance of technology in business. It also gave her an appreciation of the organizational structure of commercial enterprises, where technological and sales branches often fail to communicate effectively with each other. After this experience, she began integrating the history of technology into her research. Working in a company for a while also made her realize that research was her true calling after all.
-久野先生は2021年度に情報学環に着任されました。学環に来られるまでのご経歴とご専門についてお聞かせください。
学部は東大の教養学部でアメリカ研究を専攻しました。そこで受けた授業やお世話になった先生方のお話から、文化研究、特に社会史・文化史の面白さを知りました。私は料理をしたり食べるのが好きということもあり、特に食文化に興味を持ったんです。今では食文化研究は世界的に盛んになりましたが、当時は、文化人類学などの一部の学問を除いて、食べ物はそれほどシリアスな学問対象ではなかったこともあり、特に日本における歴史学では研究の蓄積はまだ多くはありませんでした。いろいろ文献に当たる中で、食や食関連のことは研究の対象になり得ると思い、修士に進んでからは食品業界や食品のマーケティングも含めて研究を始めました。
修士の後、総合印刷会社で2年勤務したのち、博士課程に戻り、アメリカのデラウェア大学のPhDプログラムに入りました。実はバイデン大統領の出身校でもあるのですが、デラウェア大学の歴史学科には技術史をはじめ文化史やビジネスヒストリーなどの領域を合わせたプログラムがあり、そこで消費研究、コンシューマリズムがご専門の先生について、研究を始めました。ここで博論のテーマや自分の専門を探す中で、特に食べ物の「色」に興味を持ちました。例えばアメリカと日本では食べ物に対する色彩感覚が違いますし、食べ物の売られ方とかも違いますよね。あと、食べ物とは関係ないですが、アメリカでカラーというと人種のことがまず出てくるのですが、それも色というものの文化性であったり、社会における色の意味、それが作られてきた背景ということに興味を持った理由のひとつでもあります。歴史学や文化研究の分野では、食べ物の色についてはあまり研究されていませんでしたが、でも重要な研究テーマだとだと思い、博論で取り組みました。
博士課程修了後、1年間、ハーバードビジネススクールでビジネスヒストリーを対象にしたポスドク研究員になりましたが、この時は今まで歴史学の中でやってきた研究を少し広げる形で研究を見つめ直す機会になりました。その後、京都大学経済学研究科の国際プログラムで3年半講師を務め、2021年4月に学環に参りました。
私は歴史学という学問が軸にありますが、文化研究、技術やビジネスなどの分野を横断するように、一貫して学際的な研究をしています。情報学環は非常に学際的なところで、私にはぴったりだと思っています。人々の日常生活や価値観、特にみんなが「当たり前」に思うようなことが、実は当たり前ではなく、長い歴史であるとか、さまざまな要因の中で作られてきたものであるということを、歴史的なアプローチで少しでも解明したいという動機で研究をしています。
-もともとアメリカを研究対象地域にされたきっかけはありますか?
子供のころからアメリカの文化に興味があり、高校2年生の時にテキサス州に留学しました。住んでいたのはメキシコ国境の近くの市で、移民が多く、かなり貧富の差が激しい地域でした。その1年でいろんな人種の人が混ざり合うアメリカの複雑さというか、裏と表を見たことがきっかけで、もっとこの国を知りたいと思ったのが、アメリカ研究を専攻したきっかけです。
卒論では19世紀末から20世紀転換期の、ギリシャ系移民の食文化とフードビジネスについて書きました。例えば中国系移民だと中華料理を出すお店、イタリア系移民だとイタリア料理のレストランを出すことが多いのですが、ギリシャの場合は、移民の数が比較的少ないこともあって、ダイナーと呼ばれる大衆食堂みたいなレストランを出す人たちが多くて、そこではハンバーガーやピザなど、いわゆるアメリカ料理というか、ギリシア系だけではない人たちに向けたビジネスを行なっていました。それがなぜなのか、また彼・彼女らに自分たちのエスニックアイデンティティがどのように関わっているのだろうかということを分析しました。今でこそ、ギリシアの料理のお店も出来てきて、スタンドで食べられるジャイロという食べ物もあったりしますが、研究の対象とした世紀転換期には、移民排斥運動などの影響もあり、彼らのビジネス戦略や自分たちの文化に対する認識なども今とは違う形で表れていました。
-修士課程の後、企業で働かれた経験はその後ご研究に影響していますか。
そうですね。私は歴史や文化研究をしていましたが、会社で配属されたのは技術系の部署でした。実際に何か技術開発などを行なっていたわけではなくて、本社組織内で、経営戦略の一環として技術開発を統括するような位置付けの部署にいました。振り返ると、技術というのが会社の中でどのように重要であるのかを理解するきっかけになりました。それから、よくある話かもしれませんが、技術者、開発者の人と営業の人たちがあまり会話ができてないというか、結構分断されているっていうのもそこでなんとなくわかりました。(笑)会社って必ずしもオーガナイズされてなくて、いつも理論的な判断で進んでいるわけではないっていうようなことを知ったことで、余計に企業や技術のことに興味を持ち、研究に技術史も含めようかなと思った面はありますね。
それから、正直なことを言えば、企業で働いたことで自分はやっぱり研究者としてやっていきたいと決心できたことも大きいです。最初から研究者になることに迷いがない方もいると思いますが、このままでいいのかなと結構不安に思うことも多いと思うんです。私は企業に勤めたことで、そういう迷いがなくなり、自分には研究しかないと思うようになりました。短い期間でしたが会社で働いた経験は、その後にいろいろと影響していると思います。
(後編に続く)
企画:ウェブサイト&ニューズレター編集部
インタビュー:山内隆治(学術専門員・編集部)
構成・写真:神谷説子(特任助教・編集部)
抄訳:デイビッド・ビュースト(特任専門員)
主担当教員Associated Faculty Members
准教授
久野 愛
- アジア情報社会コース
Associate Professor
HISANO, Ai
- ITASIA program