東京大学大学院 情報学環・学際情報学府 The University of Tokyo III/GSII

ニュース News

April 9, 2025

開催報告「Beyond the Headlines―データ・メディア・テクノロジーで読み解くガザ危機の深層」

2023年10月7日のハマースによる越境攻撃とイスラエルの反撃がもたらした深刻な人道危機を受け,東京大学では中東の報道機関アルジャジーラやベイルート・アメリカン大学(AUB)と連携し,ガザの戦争被害を先端テクノロジーで再表現・発信する国際共同研究を進めています。

今回,その取り組みの一環として開催された国際シンポジウムと企画展には,国内外の著名な研究者・ジャーナリスト・専門家が一堂に会し,データ・メディア・テクノロジーの関わりについて,多角的な議論と成果の共有が行なわれました。

本イベントは,東京大学・NHKの包括連携協定(東京大学創立150周年記念事業)の一環として実施されました。

 

[1]戦災に関する企画展

ガザ紛争をはじめとする戦災をテーマにした報道コンテンツとデジタルアーカイブの展示が行われました。東京大学の渡邉英徳研究室,読売新聞社,日本経済新聞社,日本テレビHD,赤十字国際委員会,株式会社QUICK,株式会社ユーカリヤが出展し,デジタルツインと3D技術,衛星画像,VR・ARなどの最先端技術を駆使して,紛争被害の発信と記録に取り組むプロジェクト群を紹介しました。

これらの技術の活用により,被害地域の精密な再現や紛争状況の迅速な記録と発信が可能となり,人道支援や復旧・復興の検討,さらには国際的な対話と協力につながる新たな可能性が期待されています。展示会場は常に多くの来場者で賑わい,今後の協働体制や技術的アプローチについて活発な意見交換が行なわれました。

 

 

 

[2]文理融合・国際連携によるシンポジウム

シンポジウムの冒頭では,渡邉英徳教授による挨拶とイントロダクションののち,アルジャジーラのアラファート・シュクリー氏,ニューヨーク大学アブダビ校のハニーン・シェハーデ氏,東京大学の滋野井公季氏が,本学とアルジャジーラ,ベイルート・アメリカン大学の共同研究について紹介しました。

 

 

挨拶

  • 渡邉 英徳(東京大学)
  • アラファート・シュクリー(アルジャジーラ研究所)
  • 池内 恵(東京大学)

研究紹介

  • ハニーン・シェハーデ(ニューヨーク大学アブダビ校)
  • 滋野井 公季(東京大学)

シンポジウムでは,来場者もアンケートツールを活用して意見を共有し,シンポジウムのテーマについて直接質問やコメントしました。隣席の来場者どうしのセッションタイムも設定し,会場全体が議論に参加して,活発な意見交換が行なわれました。

 

パネル1「ガザ情勢の最前線」

ガザ情勢についてのパネルディスカッションでは,「ガザで何が起きているのか」という問いを入口に,ジェノサイドの背景やメディア空間での報道,偽情報問題におけるソーシャル・メディアの役割などについて,広範な議論が行われました。

  • エゼッディーン・アブデルモウラー(アルジャジーラ研究所)
  • ハニーン・シェハーデ(ニューヨーク大学アブダビ校)
  • 池内 恵(東京大学)
  • 竹下 隆一郎(TBS)(モデレーター)

 

 

 

パネル2「衛星画像を用いた戦争分析」

衛星画像を用いた被害や軍事活動の可視化と,トップダウン・ボトムアップの情報収集・分析が討議されました。また,政府機関・民間・学術の連携を通じて国際社会へ正確な状況を伝えるために,さらに一層の透明性・客観性の確保と,対外発信の重要性が再確認されました。

  • ラーミー・ズライク(ベイルート・アメリカン大学)※プレゼンテーション代読
  • 井上 直樹(NHK)
  • 黄田 和宏(日経新聞)
  • 小泉 悠(東京大学)
  • 指原 佑佳(東京大学)
  • 滋野井 公季(東京大学)(モデレーター)

 

 

 

パネル3「戦災とデジタルアーカイブ」

パネル3では,戦災とデジタルアーカイブについて,速報性と真正さを旨とする報道・イマーシブな表現を備えたデジタルアーカイブの関わり,将来に記録と記憶を残すためのコミュニティ形成の重要さ,若年層の参画の意味などについて,和やかな雰囲気のなかで議論が交わされました。

  • ジャミーラ・ガッダール(アムステルダム大学)※録画上映
  • マリアム・カリーム(ノースウェスタン大学カタール校)※録画上映
  • 鈴木 聡(NHK)
  • 梁田 真樹子(読売新聞)
  • 小松 尚平(東京大学)
  • 渡邉 英徳(東京大学)(モデレーター)

 

 

 

本イベントの意義

中東地域の紛争激化により現地との直接的な連携が難しくなるなか,迅速かつ正確に戦災状況を問いかけ,社会へ発信することの重要さは一層高まっています。

その最中に開催された本イベントでは,先端技術を活用して戦争被害を正確かつ多角的に記録・共有し,人道支援や復旧・復興の検討につなげる手法が共有されるとともに,メディア報道と研究機関の役割が再定義されました。また,日本における産学連携プロジェクトと中東の戦災報道・アーカイブ研究が結びつき,文理横断の国際コラボレーションとしての意義が示されました。

加えて,トランプ政権下のアメリカにおいて,中東・パレスチナ問題の議論や活動が政治的に制約される傾向があるなか,日本で本イベントが開催されたことは,多様な視点の集約や情報の透明性・客観性の向上に大きく寄与しました。

このように,本イベントは戦災下における新たな情報発信の協働体制を築き,国際的な対話と理解を深める重要な契機となりました。今後もこうした活動を続けていく予定です。

 

イベント概要

「Beyond the Headlines」〜データ・メディア・テクノロジーで読み解くガザ危機の深層〜

場所:情報学環福武ホール(東京大学本郷キャンパス)地下2階
日時:3月31日(月)13:00~20:00(展示:13:00〜18:00,シンポジウム15:30〜20:00)
主催:東京大学(大学院情報学環メディア・コンテンツ総合研究機構,講談社・メディアドゥ新しい本寄付講座,東京大学先端科学技術研究センター創発戦略研究オープンラボ(ROLES))
共催:アルジャジーラ,ベイルート・アメリカン大学,株式会社QUICK
後援:NHK,読売新聞社