東京大学大学院 情報学環・学際情報学府 The University of Tokyo III/GSII

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September 25, 2023

藤野朝咲さん(社会情報学コース博士課程1年・高木聡一郎研究室)が社会情報学会で2023年度大学院学位論文奨励賞(修士論文)を受賞しましたAsaki Fujino (1st year Doctoral Student, Socio-Information and Communication Studies Course, Soichiro Takagi Lab) wins the SSI Thesis Encouragement Award (Master's Thesis)

藤野朝咲さん(社会情報学コース博士課程1年・高木聡一郎研究室)が2023年9月16日〜17日に立教大学で開催された社会情報学会で、「大学院学位論文奨励賞(修士論文)」を受賞しました。

本修士論文は「クラウドワークの参加継続意向に影響を与える要因の分析―職業による社会関係性の代理変数を用いた推計―」というタイトルで執筆されました。

本研究の目的は、オンラインツール、デジタルプラットフォームの普及やCOVID-19による社会情勢の変化により、個人単位での取引コストが低下したことで生じている組織運営・働き方の変容を背景に、個人のスキル・能力やアクターの相互作用が組織に与える影響を再検討する点にあります。同論文では自律的な個人に参加継続意向が委ねられる労働形態として、クラウドワークを分析対象としています。

研究手法として、個人のスキル・知識という内的要因を定量化した上で、就業開始前から就業後の各変数と合わせて説明変数とし、それらが自律的な労働形態の参加継続意向に与える影響を推計を行いました。変数の操作化にあたり、先行研究で十分に検討が及んでいないクラウドワークにおけるワーカー(就業者)、シーカー(顧客/業務委託者)間の社会関係性に関わる要因を定義し、それがクラウドワークの参加継続意向に与える影響を明らかにした点に、本研究の新規性があります。

結論として、就業期間中の社会関係性要因だけではなく、就業開始前に決定する個人の社会関係性志向がクラウドワークの参加継続意向を促進することを明らかにしました。一方で、個人のスキル・能力要因の一部で社会関係性の代理変数の統計的有意性を確認したものの、今後の研究展望として、スキル・能力由来のコミュニケーションや相互作用を変数化した上でさらなる分析を行なう必要があることを示しました。

本研究で対象としたクラウドワークに限らず、個人が自由に参加継続・中断を決めることができる生産活動(人材のシェアリングや流動性の高いプロジェクトベースの協働等)も共通の課題を有します。こうした活動における参加継続意向は個人に依存する一方で、プラットフォームとしての中長期的な継続性の向上や社会的価値を高めるための参加者の関与を促進する構造の検討は重要であり、今後の展開が期待されます。

 

【藤野朝咲さんのコメント】

指導教員の高木聡一郎先生、副指導教員の渡邉英徳先生、また学環の諸先生方からのご指導をはじめ、研究室の皆さんとの議論を経て、修士論文を執筆することができました。この場をお借りして、心より御礼申し上げます。

修士課程を振り返ると、まさにCOVID-19の影響下で社会が大きく変容していた最中でもありました。そのため一個人としても所属組織との関わり方、また自身のスキル・能力の再定義に向き合い、当初から持っていた研究関心を肌感覚としても強く意識しながら研究に取り組むことができました。

本研究によって確認できた限界、課題を活かして、今後の学府での博士課程における研究にも邁進していきたいと考えています。