東京大学大学院 情報学環・学際情報学府 The University of Tokyo III / GSII

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September 19, 2023

関谷直也教授の著書『災害情報 東日本大震災からの教訓』(東京大学出版会)が日本メディア学会「第9回内川芳美記念メディア学会賞」を受賞しましたProfessor Naoya Sekiya (Center for Integrated Disaster Information Research, III) wins the 9th Uchikawa Yoshimi Memorial Prize

日本メディア学会の内川芳美記念メディア学会賞は、日本マス・コミュニケーション学会の理事・会長を務められ、情報学環のルーツである元東京大学新聞研究所所長を務められた、故内川芳美名誉教授の寄贈を原資とする「内川芳美基金」の事業として、メディア、ジャーナリズム、およびコミュニケーション研究に大きく寄与した新刊の単著に授与されます。情報学環教員の受賞としては4件目になります。

 

授賞理由は以下の通りです:

「関谷直也氏の『災害情報』は、東日本大震災に焦点を合わせつつ、これまでの多くの防災研究者によってなされてきた災害情報・コミュニケーション研究の蓄積を総合的に整理し、今後の防災研究に資する知的基盤と方向性を示した労作である。関谷氏は、防災や避難、災害後の集合的な社会心理を理解するには、社会心理学やメディア・コミュニケーション研究の社会科学的な基礎づけが必須であることを強調し、認知枠組(第Ⅰ部)、集合現象(第Ⅱ部)、メディア(第Ⅲ部)、情報(第Ⅳ部)の4つの次元から自然災害の危機が生じた際のコミュニケーション全体を俯瞰し、社会心理学的なコミュニケーション研究の成果を防災に役立てていく方途を探っている。

たとえば、第Ⅰ部第1章では、「想定主義」「精神主義」「仮説主義」「平等主義」といった認知枠組が、危機のなかで人々がとる行動にどのような陥穽として機能する可能性があるかが統計データも駆使しながら示される。続く第2章では、具体的に「車避難」の是非についての一筋縄ではいかない状況が論じられる。さらに第3章では、東日本大震災における人々の避難パターンが、関谷氏自身の調査にも基づいて紹介され、続く第4章では、そうした避難行動の促進及び阻害要因がこれまでの社会心理学的諸理論に基づき詳細に検討されていく。同じように第Ⅱ部では、大災害のなかで生じがちな流言やパニック、被災した人々の間で増殖していく不安や不信、さらには風評被害や自粛ムードが、どのような情報流通と心理的メカニズムに基づくのかが検討される。これらの社会心理学的な検討を基盤に、同書の後半では災害時のメディア報道や情報発信が具体的に検討されている。

選考委員会では、同書は東日本大震災をめぐってなされた諸々の災害情報研究の成果を集大成したものであると共に、1980年代から継続されてきた社会心理学的災害行動研究のマイルストーンの意味を持つとの評価があった。とりわけ同書は、災害情報研究にとって将来的に必要かつ有効な方法と対象を、豊富なデータと共に幅広く示しており、今後の災害をめぐるメディア、ジャーナリズム、コミュニケーション研究の広がりと進むべき方向性を展望するものだと評価された。」

日本メディア学会:https://www.jams.media/