東京大学大学院 情報学環・学際情報学府 The University of Tokyo III / GSII

研究Research

July 7, 2023

【教員インタビュー】目黒公郎 教授(前編)An Interview with Prof. MEGURO, Kimiro (Part 1)

都市震災軽減工学及び国際防災戦略学に取り組む目黒公郎先生のインタビューです。前編では、目黒先生のこれまでのご研究や精力的に取り組まれている国際的な防災研究プロジェクトについて伺いました。
In the first part of this interview, Professor Kimiro Meguro spoke about his research on urban earthquake disaster mitigation engineering and international disaster management strategy.

*日本語は抄訳に続く(Japanese interview text follows English summary)

 

In graduate school, Prof. Meguro’s work was focused on investigating the mechanisms of structural collapse in buildings, especially due to earthquake groundmotions. Existing models were able to simulate either continuous processes of structural deformation based on continuum mechanics or the behavior of discrete media. However, there was not yet any way to link these two types of model in order to simulate the entire process of structural behavior from a sound state, to a damaged state with some cracks, and then to a state of total collapse. This is where Prof. Meguro made his first original contribution, launching his career as a researcher.

After obtaining his PhD and half a year of postdoctoral work, Prof. Meguro was appointed as an assistant professor at the International Center for Disaster-Mitigation Engineering based in the Institute of Industrial Science, the University of Tokyo. Despite the heavy workload, he looks back at his period of tenure there as a time when he was able to build a personal network that became valuable in his later work. He was also allowed considerable leeway in choosing his own research topics, enabling him to pursue his broad vision for comprehensive disaster-prevention studies.

Prof. Meguro’s international experience is extensive. He has visited more than 100 countries and conducted research projects in about 40. Many of these projects have been supported by organizations such as the Japan International Cooperation Agency, Japan Bank for International Cooperation, and the World Bank. In particular, he has developed and promoted the use of polypropylene bands to reinforce brick and stone buildings which are especially prone to earthquake damage. Polypropylene bands have the advantage of being inexpensive, readily available, easily transportable, and durable. They are therefore ideal for use in developing countries and have been successfully applied in places such as Indonesia, Iran, Pakistan and Nepal saving many lives and preventing much structural damage.

Together with experts from around the world, Prof. Meguro formed the World Seismic Safety Initiative (WSSI), an international NPO dedicated to reducing earthquake risk worldwide through the dissemination of earthquake engineering information and supporting the establishment of building codes for earthquake resistance. Under the auspices of this organization, Prof. Meguro was involved in the establishment of a seismometer network in Myanmar and helped to educate local personnel in how to operate it.

Besides directly benefiting the countries involved, this international work also feeds back to disaster management policy in Japan by providing a comparative perspective, enabling researchers to identify what features are unique to the country and what features are shared with other countries.

 

– 目黒先生のご専門についてお聞かせください。

私の専門は「都市震災軽減工学」と「国際防災戦略学」です。地震をはじめとするハザードが社会に与える障害の最小化と災害発生時を地域の問題を改善する機会として有効活用するための、ハードとソフトの両面の対策に関する研究をしてきました。国や地域を問わず、防災対策の推進は重要ですが、これをサステナブルに進めるために欠かせない市民への防災教育とそれを展開する体制の整備についても取り組んでいます。これまで、国内外の40を越える災害と事故の現地調査を行い、構造物の破壊現象の分析から、災害対応や防災制度設計に至るまで、防災対策に関わるさまざまな研究を幅広く展開してきました。

 

– 大学院生時代は地震研究所に所属されていましたが、学生の頃はどのような研究をされていたのですか?

大学院生の頃は、構造物の破壊現象の解明に関する研究を行っていました。地震の揺れを受けた構造物が「どのようなメカニズムで被災するのか」、「最終的に崩壊する場合には、どのような形で、どのくらいの時間をかけて壊れるのか」、「その影響はどこまで及ぶのか」などの破壊現象を、コンピュータを駆使してシミュレーションする手法の開発と、その手法を用いた分析をテーマとする学位論文を書きました。当時は、構造物を連続体と仮定した解析手法がほとんどでしたので、変形はシミュレーションできても、健全な状態からクラックが入って完全にバラバラになるまでの状態を追跡する手法はなかったのです。一方で、完全にばらばらな状態を仮定する非連続体解析は存在していました。そこで私は、連続体から非連続体に至る現象を統一的に扱うことのできる解析手法を開発したのですが、これが当時は世界初でしたので、これをいろんなものの破壊現象に適用することで、論文をたくさん書くことができました。それで、勘違いして研究者になってしまったところもあります。(笑)

博士課程のときからJSPSの奨学金を受けており、学位取得後もポスドクとして継続が可能であったので半年ほどJSPSの研究員をした後、1991年10月に生産技術研究所の国際災害軽減工学研究センター(INCEDE)に助手として採用してもらいました。センター長は、地震工学の世界的な権威で、国際的に活躍されていた先生でした。センターの構成メンバーでは、日本人はセンター長と私だけでしたので、当時は日本語で用意しなくてはならなかった外国人の先生方の書類の殆どを私が作らなくてはいけなかったので、随分と書類の作成は得意になりました。センターの様々な雑務とセンター長の先生の鞄持ちで世界中を回ったり、国内外で国際会議を毎年数回は主催していたので、その対応で忙殺されていました。同年代の仲間たちが一生懸命勉強し、「収穫の時間」を過ごしている中で、自分は雑務の対応で「消耗の時間」を過ごしていると、焦った記憶があります。しかしある時、「こんな消極的な態度ではだめだ。この活動で経験できることを将来的に最大限に活用できるようにしよう、ここで学べることをしっかり学ぼう」と気持ちを切り替えたことが大きな転換点になりました。実際、今になれば、当時の活動で得た人的ネットワークや体験が、現在の私にとって、非常に大きな財産になっていると感じます。視野も広がったし、研究分野を大きく拡大することにもつながりました。私のボスであったセンター長の先生は、私の研究に関しては、「特に、何をやらなきゃいけない」などとは一切おっしゃらなかったので、学生さんと一緒に自由にさまざまな研究をしました。この状況に対して、まわりの先生たちには、「目黒、学生時代にあんなにすごいことをやっていて、それを継続すれば順調に業績が伸びるのに、なぜそこに集中しないんだ」とよく言われましたが、生意気だったので、「あの研究の延長上だけでは私の目指す防災は実現できないからです」などと言い返して怒られたりしていました。

 

– 目黒先生は海外でも精力的に防災対策の推進に向けた研究や実践をされていますね。

これまでに100カ国以上を訪問していますし、その中の40カ国ぐらいで、何らかのプロジェクトに関わりました。その多くはJICAやJBIC、世界銀行など、内外の国際援助組織を介したものです。非常に脆弱で、地震の度に多くの犠牲者を出し続けているレンガやブロック、石などを積み上げた組積造建物の耐震性を、PPバンド(ポリプロピレン製の荷造り紐)を用いた簡単な工法で大幅に向上させる補強法の開発と、その普及のための取り組みなどは代表的なプロジェクトのひとつです。PPバンドは世界中で安価に入手可能で、軽くて運搬しやすく、丈夫で加工が簡単な材料です。酸にもアルカリにも水にも強い。紫外線劣化が欠点なので、耐候性の黒色のPPバンドを使うか、表面に仕上げ材を塗って紫外線を防げば、簡単に安価に補強することが可能になります。この工法で途上国の一般的住宅1棟を補強する材料費が数千円から1万円程度なので、「100ドル耐震補強」などと呼ばれています。これまでインドネシアやネパール、ペルーやパキスタン、イランなどで、この工法による補強活動をしています。インドネシアのアチェでは、津波で両親を失った子供たちの住む孤児院をこの手法を用いて新しく建設したり、地区の役場などを補強しました。ネパールでは、耐震補強から数年後に実際に地震が起こり、周囲の建物が大破する中で、PPバンド補強した建物が軽微な被害しか受けなかった例もあります。この工法を現地の人たちに教育する教材やトレーニングプログラム、促進のためのインセンティブ制度などの研究と実装を行っています。

途上国の地震災害の軽減を目的に、他の国々の地震工学や防災の権威の皆さんと連携して1992年に立ち上げた、WSSI(世界地震安全推進機構)という国際NPOを通じた活動にも長年かかわってきました。このNPOでは約30カ国の耐震基準作成の支援、初等教育から大学での講義や一般教育までを含めた教育プログラム作成の支援などを行ってきました。例えば、アメリカの権威の先生方と協力し、ミャンマーで最初の地震計ネットワークを設置するために、地震計の設置場所の選定から全体の配置計画を立てるとともに、現地の管理者を日本に招いて、利活用のための教育までを行いました。この地震計ネットワークの一部は、現在もミャンマーの地震動を記録し、その情報を国内外に発信しています。またこのネットワークがきっかけで、ミャンマーでの地震工学の研究が動き出しました。

国内外に関わらず、現場に入り、問題点の掘り起こしと解決策の提示に取り組むことはとても重要です。私は自分の専門性を活用して国際的にも貢献したいという思いもあり、海外の防災対策にも取り組んできました。この経験は実は我が国の防災対策を考える上で非常に役立っています。日本だけを見ていたのでは、日本が特殊なのか、一般的なのか、理解できません。海外の事例を学ぶことで、諸外国との比較が可能になり、初めて日本の特殊性や一般性がわかって、より汎用的なモデルで日本の問題にも取り組むことができるということです。

後編に続く)

 

企画:学環学府ウェブ&ニューズレター編集部
インタビュー:開沼博(准教授)・山内隆治(学術専門員)
構成:神谷説子(特任助教)
英文抄訳:デイビッド・ビュースト(特任専門員)


主担当教員Associated Faculty Members

教授

目黒 公郎
  • 先端表現情報学コース

Professor

MEGURO, Kimiro
  • Emerging design and informatics course