東京大学大学院 情報学環・学際情報学府 The University of Tokyo III/GSII

研究Research

December 10, 2024

【教員インタビュー】澁谷遊野准教授 (前編)Faculty Interview: Associate Professor Yuya Shibuya (Part1)

社会情報学コース社会情報・空間情報科学のご研究をする澁谷遊野先生のインタビューです。

本インタビュー記事は、前編と後編に分けて掲載します。前編ではご研究テーマとそれに至った背景について伺いました。後編では、澁谷先生が研究の場で大切にされている視点・アプローチと学府・学生へのメッセージを伺いました。

The following interview was conducted with Associate Professor Yuya Shibuya , whose field of research is Spatial Information Science and Socio-information. Part 1 deals with her research topic and the background leading to it. Part 2 focuses on the values and perspectives she adopts in her research, as well as her message for the graduate school and students.

日本語は抄訳に続く(Japanese interview text follows English summary)

 

Part 1

This is an interview with Assoc. Prof. Yuya Shibuya, who is conducting research on spatial inform science in the Socio-information and Communication Studies Course. The first part focused on her current research topic and academic background.

Yuya Shibuya recently joined the faculty of the III, having previously been a student in the GSII. As an undergraduate she majored in philosophy but, after working at a company for four years and then returning to graduate school, she developed an interest in data analysis and simulation modeling. This shift was partly motivated by her direct experience of the Great East Japan Earthquake and also by involvement in the Graduate Program for Social ICT Global Creative Leaders (GCL), an interdisciplinary program in which numerous graduate schools have participated, including the GSII and the Graduate School of Engineering.

Assoc. Prof. Shibuya is currently conducting research on the flow of people, things and information in both physical and cyber space, with a particular focus on population and socio-economic heterogeneity. She uses simulation models to understand how people relate to their environments and move around in physical space. Besides looking at more typical patterns such as commuting between home and work, she has also taken an interest in less typical patterns such as working from home or serendipitous encounters while exploring urban space.

She has been developing simulations to assess the likelihood of encounters with people different from oneself, with the aim of identifying urban design features that promote interaction between diverse groups, such as rich and poor, young and old, and people of different national backgrounds. In particular, she hopes to find ways to enable those with less opportunity for diverse social interaction, such as women with young children, to broaden their social spheres.

Her approach to the flow of information in cyberspace is similar in that she is interested in how digital environments can be designed to increase the likelihood of exposure to diverse information, thus countering the “filter bubble” problem so prevalent in contemporary digital communication. For example, she has conducted research on information bias and falsification in disaster situations. Indeed, it was direct experience of the Great East Japan Earthquake that drew her attention to the importance of removing obstacles to information flow in relief and recovery situations and the particular challenges faced by those in weaker social situations.

 

ー 澁谷先生が今回、情報学環に着任されるまでの大まかな経歴をお聞かせください。

私は、学際情報学府の社会情報学コースで修士号、博士号を取得しました。同時に博士課程教育リーディング大学院プログラムも修了しました。そのプログラムは工学系研究科を主体に学部横断型で所属や研究室を越えて研究をするものでした。

その後は、情報学環での特任助教、空間情報科学研究センターでの研究従事を経て、このたび機会をいただきまして社会情報学コースの方に戻ってきたという形になります。

 

ー 学部生の時はどういうお勉強されて、その後大学院に進まれたのでしょうか?

学部は文学部哲学専攻で学び、卒業後は地元の宮城県で4年間働いておりました。ちょうどその時、東日本大震災があり、仕事や日常生活の中でも、情報流通の格差や、デジタルの活用の遅れ、コミュニティによる復興の差異などの事象に遭遇し深掘りしたい研究課題がいくつか出てきました。そうしたこともあり、東京大学の学際情報学府に入学し、そのまま研究をしているという経緯になります。

 

ー 元々哲学を勉強されていたということで、そこから工学的な解析とかモデリングされたっていうのはすごいキャリアのチェンジだと感じたんですけれども、そこについて何か壁とか大変なこととか御自身の認識として何かありましたか。 

元々中高の時からずっと、大学に行くなら哲学と思っていました。一見異なるようにも見えますが、一方で、根本的な考え方やアプローチには工学的な研究とも共通点もあると感じています。また、データにも関心があったため、先ほど紹介した博士課程教育リーディング大学院などを通じて、どっぷりと工学系の授業を受講したりプロジェクトに参加したりしました。もちろん大変なこともあったかもしれないですが、それにも勝って、やはり楽しかったり、自分で書いたコードがうまく動くと、すごく嬉しいとか、そういう単純な積み重ねがあって、気が付いたら学際的な研究を扱うことが多くなりました。自分の中でキャリアがプツッと切れているという感覚はないです。根本的に、学問において問うものは、アプローチは違っても、似たようなものも多いと思います。そういう意味ではこの学環で学際的に色々研究する人と出会ったことや、博士課程リーディング大学院で、分野や産学の壁を越えて研究や勉学に取り組んだことは大きな経験です。

 

ー 現在の澁谷先生の研究テーマについてお話しください。

現実空間とデジタル空間の両方での人や、モノ、情報の流れをメインの対象として研究をしています。情報の流れや人の流れを、特に私の場合はその多様性とか異質性、格差という観点から見ています。

例えば、実空間での人の流れ、人流データですね。どういう人がどこからどこに移動して、どのような環境との接点があるのかといったことの解析や、行動変容のシミュレーションに取り組んでいます。都市空間での人の流れの分析を行うと、例えば、朝起きて、家を出て出勤して会社に行って、また帰ってくるみたいな典型的な人の動きというのは大体説明や予測できます。一方で、典型的なところに収まらない人や行動、例えば、在宅勤務や、ちょっと今日は気分がいいから公園散歩してみようとか、新しい店を覗いてみようとか、そういう探索性やセレンディピティー的な出会いといった行動は多様で予測が難しくなります。こうした非典型的な行動などに着目して研究に取り組んでいます。

もう一つ多様性という観点でいうと、自分と異なるタイプの人と、人々はどのくらい会う機会があるのかということを計量化したり、シミュレーションするという事をしています。例えば貧困層の人や富裕層の人、高齢者や若い人、外国にルーツを持つ人などがそれぞれが孤立してしまわないで、どれくらいお互い交流する機会があるのか、あるいはそういった交流を促すには、都市全体としてどういうデザインや介入が必要なのかということをデータを介して、解析したりシミュレーションするということをしています。

こうした研究は、人口流入が進み、さまざまな価値観やライフスタイルをもつ多様な人々が住む都市空間をどのようにデザインするかを考える上で大切だと考えています。どのような場所で交流が生まれているのか、その効果を見たり、ライフステージを含めた個人属性に応じた経験や行動の格差の解析にも取り組んでいます。例えば、日本では、小さな子供を持つ女性は特に行動や経験の格差が大きいということが私たちのデータからも分かっています。どのような都市デザインや政策的介入が、こうした格差をできるだけ小さくすることができるのかを検討しています。

デジタル空間での情報の流れに関する研究でも考え方は似ています。フィルターバブルという言葉もあるように、同じような情報にばかり触れる傾向がある中で、情報の流れに偏りがおこらならないような環境や、多様な情報に触れるような環境を確保するためにはどのようなことが求められるのかなどについて検討しています。昨今の例だと、偽誤情報や詐欺や、災害時のコミュニケーションなども対象にして研究を行っています。元々は災害時のコミュニケーションデータを解析する中で、情報の偏りや偽誤情報が目についたというのがきっかけです。

 

ー 澁谷先生の今のご研究の根幹は東日本大震災を経験されたことにあるのでしょうか

それだけとは言えませんが、そこで感じたことも影響していると思います。例えば、被災地の中と外では情報の量や質が違っていて、ミスマッチがあったり。同じような被害を受けてても、復旧復興に差があったり。当時はそれどころではなかったですが、振り返るとデータやデジタルをよりよく使えたらと考えるところはありました。やはりもともと社会的に弱い立場の方の被害が大きくて復旧復興も大変苦労されるというところはあるので、データやデジタル技術も活用しながら支え合う仕組みを考えていければと思っています。

(後編に続く)

 

企画:学環ウェブ&ニューズレター編集部
取材:開沼博(准教授)・畑田裕二(助教)・山内隆治(学術専門員)・原田真喜子(特任助教)・柳志旼(博士課程・編集部)
構成:山内隆治(学術専門員)・原田真喜子(特任助教)
英語抄訳:デービッド・ビュースト(特任専門員)

インタビュー日:2024年7月2