東京大学大学院 情報学環・学際情報学府 The University of Tokyo III / GSII

研究Research

September 7, 2023

学際情報学の実践−学府名物!2023年度「学際情報学概論II」グループワークの紹介Interdisciplinary studies in action: Group work carried out in the course "Introduction to Interdisciplinary Information Studies I/II" in the academic year of 2023

(本文は抄訳に続く/Japanese follows English abstract)

This article discusses a prominent course called “Introduction to Interdisciplinary Information Studies I/II” offered for first-year master’s students at the Graduate School of Interdisciplinary Information Studies. The aim of this mandatory course is to provide new students with the opportunity to understand and apply interdisciplinary approaches in their research activities. In the first part of the course, a total of ten faculty members from different fields within the school present their cutting-edge research, giving students an overview of the GSII’s scope. The second part involves students forming groups across specialties to work on specific themes among the ten issues proposed by the professors.

The article especially focuses on the latter, where students foster interdisciplinary problem-solving through collaboration. The article highlights the experiences of five students who participated in the course in the spring semester this year. The participants said they discussed topics ranging from analyzing conspiracy theories to developing robots for medication adherence in the elderly. The students also similarly expressed the value the diverse perspectives brought by collaboration among students from different disciplines. They also noted that the interactions among students continue beyond the course, fostering lasting connections. Overall, the course serves as a platform for students to apply the principles of interdisciplinarity and create new academic value through collaboration and exchange of ideas.

 

学際情報学府には、その「学際性」を実感できる名物授業があります。

「学際情報学概論I/II」。入学初年度の必修科目であり、学際情報学とはなにかを身をもって学ぶ通過儀礼のような授業です。概論Iはオムニバス講義。すべてのコースから1-2名ずつの先生が、自らが取り組む最先端の研究について一コマずつ講義していく内容で、学府の全体像を俯瞰することができます。一方、並行して開講される概論IIでは受講生がコース・専門分野の枠を越えてグループを構成し、自ら選択した具体的なテーマに取り組みます。最終報告に向けて進められるこのグループワークは、例年、学際情報学府の学生にとっては同期の人柄や取り組む研究テーマを知る貴重な機会ともなっています。今年度、この概論Ⅱを受講した方々に、その様子や感想を伺いました。

概論IIではまず、学環に所属する10人の先生方が10個のテーマを提供します。本年度の10テーマは次のとおりで、学環の先生方の専門の幅広さと豊かさが伺えるテーマが揃いました:

貞広幸雄先生:ラーメン店の空間科学
雨宮智浩先生:触覚メディアのコンテンツを考える
小川浩之先生:イギリスのEU離脱(ブレグジット)はなぜ起こり、そしてどのような影響があるのだろうか
開沼 博先生:そろそろ大手新聞社が普通につぶれそうな感じだけど、その後どうなる/する?:ポスト新聞時代のメディア・情報環境を構想する
上條俊介先生:世界の半導体産業の歴史から学び、日本の半導体産業の将来を考える
北田暁大先生:歴史情報とソーシャルメディアー「起源」をめぐる文の抗争
黒木真理先生:食料としての“絶滅危惧種”とどう向き合うか
小出大介先生:生命科学・医学系データベースの活用に向けた期待と課題
佐藤宏樹先生:服薬ミス・服薬忘れをなくすための方法を人と技術から考える
野村尚吾先生:希少疾患の患者さんに有効な治療を早く届けるには?

初回授業でのテーマ紹介とオリエンテーションを経て、それぞれのテーマに2つの学生グループが編成されます。それからは適宜先生方のサポートを受けつつ、グループで5週間にわたり学際的にテーマを検討し、授業の最終回で問題解決のためのビジョンやアイディアを提示することを目指します。報告会では各グループ1枚20秒のパワーポイントを20枚自動送りする「PechaKucha方式」で自分たちがまとめたアイディアのプレゼンテーションが行われました。

受講生がどのグループになるかは、テーマを第三希望まで出した上で決まります。自分の専門とは関係がなさそうだと思った分野にあえて飛び込んだという中條麟太郎さん(先端表現情報学コース)は、北田先生のグループで「SNSと陰謀論」をテーマに、過去に日本で広がった陰謀論とその性質や特徴を、時代やメディアを軸に整理することで、今後の陰謀論がいかなる内容で、どのように広がる可能性があるかを考察しました。中條さんは進んでメディア論をテーマに選んだとはいえ、「蓋をあけると自分以外はみんな社会情報学コースの学生だったので、これは大変な授業になりそうだと密かに腹を括った」と言います。しかし実際にグループワークが動き出すと「思わぬところで自分の研究テーマとの重なりが見えたり、異なる背景をもっているがゆえに議論に新しい視点を加えるきっかけになれたり、気がつけば一番楽しい授業になっていた」そうです。最終発表では、「本・雑誌・新聞 / 80~90年代」「掲示板 / 00年代」「ミニブログ型SNS / 10年代」「動画型SNS / 20年代」という区分を用いて、それぞれに2例ほど実際の陰謀論を紹介しながら、その時代の陰謀論の特徴をまとめた上で、生成系AIによる将来の陰謀論の可能性についても言及しました。

尚倩玉さん(社会情報学コース)も、理系の課題の解決方法や考え方を知りたいという思いから、総合分析情報学コースの貞広先生の「ラーメン店の空間科学」という課題に挑戦し、グループで山手線と東京都23区のラーメン店の味の分布を可視化しました。メンバーは文系と理系の学生が半々。まず具体的なテーマと調査方法を明確にすることに重点を置き、各々に割り振られたデータを収集した上で、それをPythonで処理し、地図に反映させました。尚さんにとってPythonを用いたプログラミングは「完全に未開拓の領域」でしたが、チームメンバーがPythonの環境構築の手順をゼロから詳しく教えてくれたそうです。約2週間かけて、自らPythonの入門動画もたくさん見るなどした上で、無事にスクレイピングを成功させました。「自分が取得したデータが地図上で見事に可視化された瞬間は、非常に感動的でした。」

概論IIの醍醐味はやはり、専門の異なるメンバーとの協働のおもしろさを実感できることでしょう。田丸陽稀さん(総合分析情報学コース)は、佐藤宏樹先生のもとで、日本において年間8000億円分にも及ぶ薬が無駄になっているという状況を解消するべく、服薬ミス・服薬忘れをなくすための方法を人と技術から考えるという課題に取り組みました。HCIや機械工学など異なる専門のメンバーでディスカッションしながら、残薬が最も発生しやすい高齢者に的を絞り、服薬を支援するロボットの開発に取り組みました。「各々の学問では手の届かない分野を補完し合うことで、多角的な検討ができた」そうで、「各メンバーが一つの目的のために専門知を持ち寄り、集合知となっていく点が非常に印象的」だったとのことです。

乘濵駿平さん(先端情報表現コース)のグループは、小出先生からのテーマである「生命科学・医学系データベースの 活用に向けた期待と課題」に取り組みました。医療ビッグデータの利活用に関する精度がどのようになっているのかを調べ、データをより安全に有効に利用するための技術面での研究の、また、ゲノム情報の取り扱いについての法的な議論の必要性を論じました。グループのメンバーはそれぞれが興味を持つ領域について分担して調べ、その内容を共有し、持っている知識を出し合って議論を行い、まとめていきました。法律に詳しいメンバーには基本的な枠組みや捉え方について教わり、技術に詳しいメンバーには技術的な困難や最新の研究について教わることができたそうで「多様な分野の学生や先生方と交流し、それぞれの強みを活かしながら課題の解決に向けた協力をするという体験ができてとても面白かった」とのことです。

また、グループのメンバーと対面で会い、課題以外の話をして打ち解けたことはグループワークの活性化に繋がったとの声も聞かれました。濱津すみれさん(文化人間情報学コース)は開沼先生の「2033年のメディア情報環境を想定し、その時に社会的・技術的にいかなる状況になっているか、その正負両面の分析をした上で、さらにその後の展望を考察する」というテーマに取り組みました。思考実験として「2033年に新聞やテレビニュースなど既存のニュースメディアが全てなくなった」状況を想定し、「2033年はOpen Source Intelligence とAIが組み合わさった社会になり、情報空間の非中央集権化に応じてメディア・情報環境も非中央集権化し、新聞が果たしていた役割が自立分散型組織に分担され再構成されている」と結論づけました。文人・先端・社情・生物統計コースのグループメンバーは研究の内容も年齢層も幅広く、これまでのバックグラウンドも多様で、「一つの話題に対しても様々な角度からの意見があって、自分が知らないことや考えつかない視点などを沢山学べた」といいます。対面でグループワークをした日に一緒にランチをして親しくなったことで、最終報告に向けた作業がしやすくなったそうです。

初めて向き合うテーマに異なる専門領域の学生が協力して向き合う概論II。そのグループワークやプレゼンテーションは、新たな発見や学びを得る良い機会となったようです。今回感想を聞かせて下さった方々の多くは、グループのメンバーとその後も交流が続いているとも言います。「学際」という理念を、現実のコミュニケーションの中で実感・実践できる場。ここで生まれた交流が、すぐにでも、遠い未来にでも、新たな学術的価値を生み出していくことを願ってやみません。

 

企画:学環ウェブ&ニューズレター編集部
記事:神谷説子(特任助教)、開沼博(准教授)
協力:中條麟太郎、尚倩玉、田丸陽稀、乘濵駿平、濱津すみれ、福井桃子(修士課程)
英語校正:デイビッド・ビュースト(特任専門員)


主担当教員Associated Faculty Members

准教授

山川 雄司
  • 先端表現情報学コース

Associate Professor

YAMAKAWA, Yuji
  • Emerging design and informatics course