東京大学大学院 情報学環・学際情報学府 The University of Tokyo III/GSII

研究Research

January 16, 2025

レポート:第3回MeDi-B’AIシンポジウム「メディアの現場はどう変わるのか?——AIとフリーランス新法」Report: The 3rd MeDi-B’AI Symposium “How Is the Media Landscape Changing? — AI and the Freelance Act”

2024年11月16日(土)、第3回MeDi-B’AIシンポジウム「メディアの現場はどう変わるのか?——AIとフリーランス新法」が情報学環・ダイワユビキタス学術研究館にて開催されました。本シンポジウムは、2024年11月より施行された「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」通称「フリーランス新法」と、AI技術の進化に伴うメディア業界の労働環境の変化に焦点を当て、メディア産業従事者の人権や日本のメディア文化について考えることを目的に企画されました。主催は「メディア表現とダイバーシティを抜本的に検討する会(MeDi)」、共催はB’AI Global Forumです。

MeDiメンバーで東京大学理事・副学長の林香里教授は冒頭の趣旨説明で、メディア業界におけるフリーランスの労働者の地位を、基本的人権として保障することの重要性を強調しました。そして今回のシンポジウムが「労働環境の改善」「制度的改革」「多様性の尊重」の観点から、日本のメディア文化のあり方を再考するものであることを説明しました。

シンポジウムの第一部では、現在のメディア業界が対峙する多様な問題が提起されました。モデレーターを務めた相模女子大学大学院の白河桃子特任教授のもと、元ライターの池田鮎美さん、インティマシーコーディネーターの浅田智穂さん、ジャーナリストの長谷川朋子さん、レイ法律事務所の佐藤大和弁護士、大妻女子大学の李美淑准教授が話題を提供しました。池田さんは『セクシー田中さん』のドラマにおける原作改変問題、浅田さんは映像作品の制作現場におけるインティマシーコーディネーターの導入事例、長谷川さんはアメリカ発のドラマ『SHOGUN』のヒットが示唆する日本メディアの課題について発表しました。続いて佐藤弁護士が「フリーランス新法」がメディア分野に与える影響について解説し、最後に李准教授が、生成AIによるメディア業界および人間労働の変化について取り上げました。

第二部では、問題解決に向けた知識が共有されました。登壇者は、フリーアナウンサーとして活動した経験を持つ東海学園大学の北出真紀恵教授、学習院大学の橋本陽子教授、東京大学大学院の山﨑俊彦教授です。北出教授はインターセクショナリティの観点からアナウンサーという職業の周縁性について報告し、橋本教授は法律の専門家の立場から「フリーランス新法」の概要と残された課題について、山﨑教授はAI研究者の立場から、生成AIの技術的な現在地と今後社会で議論されるべき課題について話しました。

第三部では、情報学環の田中東子教授がモデレーターを務め、俳優・日本芸能従事者協会代表理事の森崎めぐみさん、ジャーナリストの浜田敬子さん、第一部登壇者の池田鮎美さん、第二部登壇者の北出真紀恵教授がパネリストとして登壇しました。パネリストたちは、AIによる人間の労働の置き換えの実態や「著作者人格権」保護の重要性、メディアの信頼性について議論しました。最後は総合司会であるフリーアナウンサーの大下香奈さんのアナウンスにより締め括られました。

本シンポジウムでは、AI技術の発展に伴い労働市場・労働現場が再編されるなかで、メディア業界におけるジェンダー格差・ジェンダー不平等・ハラスメントの問題があらためて表面化していること、そしてクリエイティブなメディアコンテンツの制作のためには、業界における権力勾配や構造的課題と向き合う必要があることが示されました。

 

記事:加藤穂香(特任研究員)
写真:葉いずみ(修士課程)

On Saturday, November 16, 2024, the third MeDi-B’AI Symposium, titled “How Is the Media Field Changing? – AI and the New Freelance Act,” was held at the Daiwa Ubiquitous Computing Research Building on the Hongo Campus. The symposium focused on the newly enacted “Act on Ensuring Proper Transactions Involving Specified Entrusted Business Operators,” known as the “Freelance Act,” as well as the changing labor conditions in the media industry due to advances in AI technology. The aim was to reflect on the human rights of media workers and the state of Japan’s media culture. The symposium was organized by the MeDi (Media and Diversity Forum) and co-organized by the B’AI Global Forum.

 

The symposium featured a diverse range of speakers, including practitioners from the media and entertainment industries, as well as lawyers, legal scholars, AI researchers, and media scholars. These experts engaged in discussions on the future of media culture and the structure of the industry in the AI era.

 

The symposium highlighted how issues, such as gender disparity, gender inequality, and harassment, have resurfaced in the media industry alongside the reorganization of the labor market and changes in labor conditions resulting from recent advancements in AI technology. It was emphasized that, in order to produce creative media content, it is essential to confront the power imbalances and structural problems within the industry.

 

Text: Honoka Kato (Project Researcher)
Photo: Izumi You (Master’s Student)
English proofreading: David Buist (Project Senior Specialist)