東京大学大学院 情報学環・学際情報学府 The University of Tokyo III / GSII

研究Research

June 4, 2020

【教員インタビュー】越塚 登 教授(前編)Interview with Professor KOSHIZUKA, Noboru (Part1)

今こそ学環の時代 「スマートシティ」にみる連携の広がり
越塚 登 教授 (前編)

2019年秋に新学環長・学府長へ就任された越塚先生にお話を伺いました。スマートシティをめぐる研究活動について、また、今年度20周年を迎えた学環学府について現在の思いを語って頂きました(取材日:2020年2月7日)。

The Interfaculty Initiative’s Time Has Come: Expanding Networks and the Smart City
An Interview with Prof. KOSHIZUKA, Noboru

In this interview, Dean Noboru Koshizuka, who assumed the deanship of the III/GSII in Autumn 2019, told us about his own research and his vision for the Interfaculty Initiative in this year of its twentieth anniversary (Interview date: February 7, 2020).

(Part1) Dean Koshizuka’s research is centered around the concept of the “smart city,” employing IoT, AI and block-chain technologies to tackle social problems. However, since his recent projects have been mostly based in rural areas, the concept of the “smart rural area” might be more appropriate. For example, he has been working on joint projects with agricultural institutions to develop systems to predict crop yields using AI. He is also engaged in research to make use of the data collected by smart meters without infringing on users’ privacy. For example, electricity consumption data can be used to alert home delivery companies about the best time to deliver a parcel when the addressee is at home, or to monitor the health of frail elderly people in depopulated areas. Through frequent visits to small towns and rural areas, Dean Koshizuka has been able to identify many problems still awaiting solutions. He points out that the failure of large Japanese corporations to tackle such problems lies in their business model, which prioritizes large profit volumes and a high level of personnel specialization.

 

— はじめに、現在のご研究について教えてください。

大きく括れば、スマートシティ。スマートシティを構成する技術としてIoTやAI、ブロックチェーンも使う。だから技術の側から見ればIoTとかAIですが、応用の観点から見ればスマートシティかな。現在進めている研究には、主に農業に関するものと、電気メーターに関わるものがあります。地方でのプロジェクトも多いので、その場合にはシティではなく、Smart Rural Areaとも言っていますね。

— Smart Rural Area、いいですね。現在進められている農業に関するプロジェクトとは?

2018年から2019年にかけて、高知県農業技術センターとの共同研究を実施しました。その時はナスの収穫量をAIで予測する、ということをやりました。今年度は、農学部との共同研究でトマトを育てる予定です。東京の田無に農学部が畑を持っていて、そこのビニールハウスをひとつ借りて「インテリジェントビニールハウス」をつくっています。トマトの栽培自体は農学部の人たちが実習としてやり、僕たちはその環境、温度とか湿度、日射量などのデータを測るための仕組みをつくっています。

— 電気メーターに関わるプロジェクトとは?

家庭で使われている電気量を測定しているメーターがあると思いますが、あれが今どんどんスマートメーターになっています。情報は自動的に電気会社に送られるようになっていて、今だとだいたい30分毎にモニタリングしてる。そのデータがあると、実はいろんなことに役立ちます。家のなかのアクティビティも分かってしまうので、プライバシーの問題はあります。でも、それを上手く使うとすごく便利なこともあって、今は2つのことをやろうとしています。

ひとつは、特に都心部で問題化している宅配便の不在配送に対するプロジェクト。佐川急便との共同研究です。今、20%くらいが再配達なんです。これがコストを非常に圧迫している。ならば、いないんだったら届けない、いるときにだけ届けましょうっていう仕組みが電力メーターを使えば出来るだろうと思っています。

家に人がいる・いないをそのまま配達員に知らせてしまったらプライバシーの問題になります。そこでどうするかというと、配達ルートを自動的につくる仕組みを構築します。つまり、それは一軒一軒から届く配達依頼と、電気メーターによる在・不在の情報を組み合わせたルートになります。それをAIを使ってつくり、配達員の端末に表示する。上手くいけば、配達員の人たちは不在に出会うことがなくなります。

現在、配達員の人たちは、毎日どの家が不在なのかを知っています。考え方によっては、今の方が危ないかもしれない。新しい仕組みの場合にも、誰を信用するかという問題は残ります。配達ルートを自動生成する場合には、そのソフトウェアをつくっている人のことは信用してもらわなくては困るので。ただ、配達員の人たちにプライバシーを隠せる効果も高いため、まずは実験をしてみようと研究を進めています。

もうひとつのプロジェクトは、三重県の東員町というところで進めている高齢者の問題に関するものです。東員町は過疎化が進んでいて、高齢者が要介護になる前の状態を「フレイル」というのですが、このフレイルの状態を、電力メーターのデータをみることで検知できないかと考えています。いまは、お年寄りの人たちに集まってもらい、アンケートに答えてもらうことで検知しようとしていますが、コストの問題と、頻繁には出来ないということで、十分な検知ができていない。これは、県やまちの福祉の人たち、それと東大の高齢社会総合研究機構の先生と一緒に始めたものです。

— 実社会に今ある仕組みを変えたり、人や組織との連携をどうするかという面も大きいのでは?

大きいです。研究室のなかではそれは僕の仕事かな、最初に話をつけたりとかね。いろんな自治体との連携を積極的にやっています。少し学環長としての仕事とも関わりますが、情報学環と連携協定を結んだり。それを高知県とやり、広島県とも。2020年2月には、山口県宇部市とも連携協定を結びました。

そういう場所にいくと、やはり地方地方の課題が見えてきます。社会課題なんてね、ほとんど解決されていないっていうのが僕の正直な印象です。だから研究テーマに困ることは全くありません。ほとんど何も解決されてなくて、ほとんど何も取り組まれていない。だから、取り組んでいる人たちがいれば一緒になって研究しています。

地方にいって初めて分かることでもうひとつ大きな課題だと思っていることがあります。それは、日本のビジネスモデルの問題。僕がよく冗談でいってることに「3000万円の法則」というのがあってね。なにかっていうと、日本の大手ベンダーさんにITのソリューションをお願いすると、見積書の最低ラインが3000万円なんです。3000万円より安い見積書はでてこない。

気持ちはよくわかって、3000万円以下だと仕事にならない、利益がでないんだよね。でも農業でも漁業でも、地方に出て行って3000万円の仕事なんてほとんどありません。このビジネスギャップをどう埋めるか、これはまた別の研究だと思っています。なぜ3000万円になってしまうかについても、別の冗談で「8人の法則」と言っていて。大手ベンダーさんと打ち合わせをするとね、必ず8人やって来るから(笑)8人やって来て半日費やしたら、それだけで人件費がすごくかかる。これは、会社ではもう「1人で行ってこい」はできない、ということです。営業は営業、技術は技術、戦略は戦略みたいに分担になってしまっているから。つまり、日本のビジネスモデルが地方を扱うことができないものになっている、ということなんです。これは大きな課題です。

後編へ続く)

企画:ウェブサイト&ニューズレター編集部
取材:鳥海希世子(特任助教)、鈴木麻記(特任研究員)
英文:デイビッド・ビュースト(特任専門員)


主担当教員Associated Faculty Members

教授

越塚 登
  • 総合分析情報学コース
  • 生物統計情報学コース

Professor

KOSHIZUKA, Noboru
  • Applied computer science course
  • Biostatistics and bioinformatics course