東京大学大学院 情報学環・学際情報学府 The University of Tokyo III / GSII

教員 Faculty

教授

菊地 大樹

Professor

KIKUCHI, Hiroki

  • 文化・人間情報学コース

研究テーマ

  • 歴史社会情報論
区分:
学内兼担・授業担当教員
  • Cultural and human information studies course

Research Theme

Position: 
Affiliated Faculty
略歴

東京大学文学部国史学科卒業、同大学院修士課程修了後、東京大学史料編纂所助手を経て准教授、博士(文学)。
2002-2003、プリンストン大学東アジア学部客員研究員。
著書に『中世仏教の原形と展開』(吉川弘文館)、『鎌倉仏教への道』(講談社)他


私の専門は、日本中世史です。特に歴史学の立場から、中世仏教、金石文および古記録論の3つを 柱として研究を進めています。三者の関係は、中世仏教への興味関心をベースとして、史料編纂所において重視されている史料学研究の方法を意識しながら、金 石文や古記録研究を進めているということになります。

■ 仏教史研究

中世仏教については、8世紀から10世紀ごろまでの古代の状況を踏まえ、さらに11世紀から 14世紀ぐらいまでの中世社会前期において、それが歴史・思想的にどのように継承され、展開していったのかという切り口から、「思想的系譜論」を重視して 研究してきました。6世紀ごろに仏教が渡来すると、列島側は単にそのインパクトに圧倒されていたわけではなく、それを柔軟に受け止めて列島的な要素を加 え、徐々に自分のものとしていきます。中世の列島には、法然・親鸞・道元・日蓮ら、中世日本文化に大きな足跡を残し、現代にいたるまで強い文化的影響を与 えた仏教史上の人物を多く輩出しています。私は、このような僧たちが出現する思想的背景に興味を引かれ、民衆仏教に関心を持っています。そこで、そのよう な民衆仏教を担ったヒジリの一群である持経者という宗教者に注目しています。今後は、さらにこのような中世の聖について研究するとともに、民衆の側からの みではなく、制度や権力の側からの中世仏教論の研究も進めていきたいと考えています。

■ 金石文・石造物研究

金石文とは、広く金属や石など紙以外の媒体に記された文字のことを指します。主に、対象物に紙 を水張りし、上から油性の墨を置いて文字や図像を浮かび上がらせる拓本という伝統的な技法によって史料化を進めています。金石文研究は私の場合、宗教史研 究から発展して興味を持つにいたった分野です。なぜならば日本の場合、中国やヨーロッパなどと異なり、特に中世の金石文・石造物はほとんどが宗教的な契機 によって作成されています。それは何故か?この問いは単純なようですが、日本の金石文全体の特徴を考えてゆくうえで根本的な問題提起を含んでいます。私自 身、日々そのことを念頭に置きながら研究を進めることにより、単に金石に書かれたテキストだけではなく、それが記された環境や受容者、歴史的文脈における 意味づけについて考えを深めています。

■ 古記録論

古記録とは、主に日記史料を指します。私の場合、史料編纂所では古記録研究のセク ションに所属し、鎌倉時代の三条実躬という貴族の日記を中心に研究を進めています。前近代、特に中世貴族にとって、日記は家の継続のために日々の政務や儀 式の内容を記録し、子孫に伝えるという機能を持ちました。しかしそのような機能的な日記の中にも、様々な当時の風俗が記され、時として個人の内面を吐露す るような記述がなされることもあります。この意味で、日記史料は中世社会全般の実態を明らかにするうえで無限の可能性を秘めた史料群であるといえます。史 料編纂所では、日記史料についても、単に書かれたテキストだけではなく、原本を詳細に観察して、そこから得られる様々な情報や日記の裏側に残された文書の研究をも進めています。

■ 学生のみなさんへ

歴史社会情報論とは、まだできたばかりの極めて新しい分野です。みなさんとともに日々研究を進めるなかから、歴史社会情報論の姿を浮かび上がらせていきたいと思います。そのためには、歴史学のどの分野でも重視されるような、史料の地道な読解を避けて通ることはできません。し かし、それは単なる文献学に終始するという意味ではなく、歴史社会における様々な史料を歴史情報として資源化することにほかなりません。そして、過去の 人々が意識・無意識のうちに共有した歴史知識を発見することは、歴史的文脈の復元、ひいては歴史叙述への重要な基礎となります。各自の興味関心や分野は異 なっても、それらの背景にはかならず歴史社会が存在します。それへのきづきのなかから、是非ユニークな研究テーマを発見し、追及していただきたいと思って います。