東京大学大学院 情報学環・学際情報学府 The University of Tokyo III / GSII

教員 Faculty

教授

開 一夫

Professor

HIRAKI, Kazuo

LAB WEBSITE

開一夫研究室
https://ardbeg.c.u-tokyo.ac.jp/ja/top/

  • 文化・人間情報学コース

研究テーマ

  • 認知情報分析学
区分:
学環所属(基幹・流動教員)
  • Cultural and human information studies course

Research Theme

  • Developmental Cognitive Science
Position: 
III Faculty (Core & Mobile)
略歴

慶應義塾大学大学院計算機科学専攻修了。博士(工学)。その後、通商産業省電子技術総合研究所情報科学部主任研究官をへて、東京大学大学院総合文化研究科から情報学環へ流動。
著書は「日曜ピアジェ:赤ちゃん学のすすめ」など。

主要業績

詳細な業績は開一夫研究室(主な業績)をご覧ください。


私たちが日頃なにげなく行っていることも、それを「どのようにして」やっているのかを考えると、ちゃんと答えることができない場合が数多くあります。朝起きて鏡を見ながら身支度をする。お茶の時間に仲間たちと会話を楽しむ。夕食後のひと時にテレビドラマを観て過ごす。こうした日常的な活動はあたり前すぎて意 識することすらありません。しかし、我々は鏡に映っている自分を見て、なぜ自分自身の姿だと判るのでしょうか? 気が置けない友人とのおしゃべりはなぜ楽しいのでしょうか? テレビ映像としての出来事と現実世界での出来事をどう区別しているのでしょうか?こうした素朴な疑問に答えるためには、心がどのように働くのか-メカニズム- について解明する必要があります。

ある機能に内在するメカニズムを解明するには、その機能を実現している構成部品とそれらの間の関係について知る必要があります。自動車がなぜ走るのかを知るには、エンジンやミッション、車体やタイヤなど多くの構成部品の仕組みとそれらの関係を理解しなければなりません。

認知科学という研究分野は、心のメカニズムを科学的立場から解明することを目標としています。認知科学では、多種多様な方法が用いられます。fMRIやMEGな ど最先端の実験機器を用いて脳活動を探ったり、コンピュータ・シミュレーションで人間の認知活動のモデルを構築したりと、現在用いることができるありとあ らゆる方法・機器が使われています。これらは、自動車の例で言うと、エンジン点検やモデルを作ることに対応させることができるかも知れません。どれも心の メカニズムを解明する上ではなくてはならない方法です。しかし、私は、発達的観点に立った乳児研究 –赤ちゃん学– こそが、心のメカニズムを解明する近道だと信じています。

我々の心は、自動車ほど単純ではないのです。心が自動車と大きく異なる点は、そのダイナミックな性質にあります。自動車は完成してからでないと走り出すことは出来ませんが、人間の心は生まれた時から(あるいは胎児のうちから)機能しているのです。心の機能を構成する部品は、それぞれ完成してから全体として組み立てられるのではなく、部品自体が機能的にも構造的にも時々刻々と変化し、心全体も変化し続けます。新たな部品が登場したり、ある部品が消失したりする可能性もあります。主に成人の -完成した- 心を対象とする脳機能測定や心理学実験だけでは、こうした心のダイナミックな性質を捉えることができないように思います。

私の研究室では、生まれたばかりの乳児から成人までを対象とした発達認知神経科学的研究を行っています。研究には、高密度EEGやNIRS(近赤外分光法)など人間の脳活動を非侵襲かつ低拘束で計測するための装置が用いられます。赤ちゃんを対象とした実証的研究は認知科学の基本問題を解決するだけでなく、多くの情報機器を開発する上でも重要な知見を提供します。実際、自動車メーカなど赤ちゃんとは一見関係なさそうな企業との共同研究も進んでいます。