東京大学大学院 情報学環・学際情報学府 The University of Tokyo III / GSII

教員 Faculty

准教授

永石 尚也

Associate Professor

NAGAISHI, Naoya

  • 社会情報学コース

研究テーマ

  • 法哲学、法と科学、情報法・政策
区分:
学環所属(基幹・流動教員)
  • Socio-information and communication studies course

Research Theme

  • Philosophy of Law, Law and Science Information, Law and Policy
Position: 
III Faculty (Core & Mobile)
略歴

博士(法学)(一橋大学)

2018年 一橋大学法学研究科博士後期課程修了

2018年 一橋大学法学研究科特任講師

2019年 山形大学大学院基盤教育機構講師

2021年より現職

Biography

2018 Ph.D. in Law (Hitotsubashi University)

2018 Project Lecturer, Faculty of Law, Hitotsubashi University

2019-2020 Lecturer, Institute for the Promotion of General Graduate Education, Yamagata University

2021-present, Assistant Professor, Interfaculty Initiative in Information Studies (III), The University of Tokyo


◯研究テーマ
科学・技術の発展に伴い新たに生じる(そして時に過剰に帰属される)諸リスクに法はどう対応できるか、そして法形成・法運用自体によって生じる新たなリスクの創出に法制度はいかに対応できるか、これらの科学・技術と法との相互作用やそれを支える専門家-市民関係はどのようなものでありうるか……
こうした問題について、社会制度の礎としての法のあり方を探る法哲学分野から研究しています。
より具体的には、技術哲学的な蓄積を基礎とした「リスクと法」、広くは科学技術社会論や「法と科学」の観点を借りながら、科学・技術と社会の間に生じる様々な問題について研究を進めてきました。ここには、以下のトピック等が含まれます。

【トピック(抜粋)】
1. リスク社会における因果と偶然
・法における因果/過失判断と因果推論上の諸問題
・リスク社会における運/多重偶発的事象の過剰帰属化

2. 法/技術と正統性確保の諸問題
・行政国家における統治手段の多分岐化とその統制原理
・アーキテクチャの正統性確保とデータ処理からの保護
・説明可能AIと尊厳・信頼概念の変容

3. 応用課題(生命倫理・医療倫理、世代間正義)
・エンハンスメントを含むニューロエシックス上の倫理的課題(ほか医療倫理・公衆衛生倫理上の諸課題)
・現在世代から時間的に離れた将来世代との衡平・正義の確保 など

◯法哲学のひろがり
法哲学と聞くと、いかにも現実の制度や状況からは距離をおいた(もしかしたらカビの生えた)分野と思われるかもしれません。しかし実際には、法学諸分野のみならず様々な学問分野の蓄積を踏まえて、人々が現に生きる社会制度のありようを分析しつつ形作るダイナミズムに満ちた分野だと考えています。
現下のCOVID−19下の状況を例にとっても、国際連携・公私協同・GAFA等グローバル企業による広義の規制として、①域内外を問わない公共的言論空間への介入(その正統性確保の挫折)、②位置・追跡情報をはじめとするプライバシー関連情報のデータガバナンス(そのなし崩し化)、③「要請」をはじめとするインフォーマルな行動誘導手法(特にコミュニケーション回避型ナッジの跋扈)をいかに統制するかなど、様々な法的/準-法的な問題が噴出しています。
私自身、上記①から③にかかわる論文を個々別々に公刊してきましたが、こうした目の前にバラバラと広がっているかに見える問題群の背後には、例えば「デファクトに ”独占”を得た主体(国家・協会・業界団体、企業、専門家集団……ひいてはアーキテクチャそれ自体)が、なぜ(どこまで)公共的な責務を担うのか、また他者に公共的責務を負わせることができるのか?」という、かつて哲学者ロバート・ノージックが探究した原理的かつ共通の課題が控えています。一例ではありますが、ここに、問題の個別性と背景にある共通性とを往還する法哲学のダイナミズムを見て取れるのではないでしょうか。
さらに、個別的な権利保障・利益調整には還元されない社会像・社会構想についての議論の蓄積を、現実の技術の変容・ありようや人々の生活様式の変化をも含む眼前の状況と照応させる横断性もまた、ここには透かしみることができるでしょう。

◯大学院生の皆さんへ
このように、現在の情報社会・情報技術をめぐる諸課題に対応するにあたっては、哲学的思弁の蓄積を振り返るとともに、現実の政策の揺れ動きを捉えることが重要となります。そして、法の基礎にある諸原理に遡りながらも法政策的な射程を見据え、各分野の知見を横断しつつ連携を深める必要もまた、かつてないほど高まっていることは疑いありません。
もちろん、一人でカバーできる範囲には限界があります。私自身、学部では所属上は二箇所(法学・社会学)に足を置きつつ倫理学の主ゼミで学修したり、その後金融取引所を経て法曹実務家養成のロースクールに行ったりと、あちらこちらをふらふらしつつようやく法哲学に辿り着きましたが、研究対象が増えるにつれ、「あの時あの分野の同期・同僚や専門家ともっと密に連携をとっていれば……」と思うことは本当に数多く生じてきます。
しかし幸いなことに、学際情報学府は各人の意志さえあれば、同期・同僚・専門家間の横断・連携には事欠かない場所です。相補性のうねるこの場には、皆さん自身の研究が横断的に広がるチャンスが大いに控えています。私もまた一教員として、情報社会・情報技術をめぐる課題への対応に向け、皆さん一人一人が今後連携していける基礎を提供できたらと願っていますし、またそう努力していきたいと考えています。

まとめにかえて問いを2つ。
技術に媒介されて自らのありようや制度・環境を変化させてきた私たちは、私たち自身をいかに統治することができ、また統治するべきなのか。とりわけ情報技術は私たちに、時間を通じた諸変容・諸影響をいかなる形でもたらしてきたのか、また今後もたらすのだろうか。
こうした課題にご興味ある方は、ぜひ法哲学から見た情報法・情報政策の森に足を踏み入れてくださいましたら幸いです。