東京大学大学院 情報学環・学際情報学府 The University of Tokyo III / GSII

研究Research

January 17, 2020

教育部研究生によるドキュメンタリーが「地方の時代」映像祭優秀賞受賞A Documentary of the Undergraduate Research Student Program Won an Excellence Award at “The Age of Regionalism Video Festival 2019”

(日本語記事は英文に続く)

A film entitled “Benches as Hostile Design in Urban Space: Pursuing the Cause of Feeling Uncomfortable” which was produced in the class “Media Studio Practicum I/Media and Journalism Practicum VII” won an award for excellence in the citizen, student and municipality category at “The Age of Regionalism Video Festival 2019”. Since 1980, the festival has provided a platform for TV stations, cable television stations, municipalities, citizens and students to publish their videos. The award ceremony was held on Saturday, November 16, 2019 at Kansai University, and awards for excellence were given to the top three groups among the 10 nominees of the category. Congratulations!

Applications for the III’s Undergraduate Research Student Program will be open from Monday, January 20, 2020. This is a unique two-year program designed mainly to meet the learning needs of undergraduate students wishing to study information, media, communications and journalism. Applications are accepted from a wide range of people, including students of other universities and people already in full-time employment, in addition to existing students in the University of Tokyo. Full details of the entrance requirements are given in the “Guidelines for Applicants”.

「メディアスタジオ 実習Ⅰ/メディア ジャーナリズム 論実験実習Ⅶ」(学府・教育部授業)で制作された、「排除ベンチ~居心地の悪さをたどって~」という作品が、第39回「地方の時代」映像祭2019(主催:吹田市、関西大学、日本放送協会、日本民間放送連盟、日本ケーブルテレビ連盟)の「市民・学生・自治体部門」にて、同部門の大賞にあたる優秀賞を受賞しました。「地方の時代」映像祭は、1980年以来、全国各地の放送局・ケーブルテレビ局・自治体・市民・学生・高校生が制作した映像作品を発信する場となってきました。この映像祭は「地域・地方からわが国のあり方を問う」というテーマのもと、多様性や地域の個性を新たに見直すことを目的としています。2019年11月16日(土)に関西大学で贈賞式が行われ、全10作品の入賞作の中から、優秀賞に選ばれました。受賞した情報学環教育部研究生の4名より受賞コメントを頂きましたので、下記に掲載します。おめでとうございます!

また、情報学環教育部(以下、教育部)では、今年も1月20日より出願受付を開始します。教育部は、情報、メディア、コミュニケーション、ジャーナリズムについて学ぶことのできる、2年間の教育プログラムです。大学2年生以上であれば、他大学の学生でも社会人でも学ぶことができます。ご興味のあるかたは、情報学環のウェブサイトに令和2(2020)年度の情報学環教育部研究生の募集要項がありますので、ご覧になってみてください。

記事:鈴木麻記(特任研究員)
英文校正:デイビッド・ビュースト(特任専門員)

・受賞学生のコメント

田村進也
私たちは情報学環教育部の授業で「排除ベンチ」をテーマとした作品を制作しました。
これは、公園などに設置された真ん中に手すりがついているベンチを「排除ベンチ」と呼び、それが実はホームレス排除を目的としているのではないかという仮定のもとで、それを検証しながら排除の歴史をたどるというものです。
そしてこの度、大変光栄なことに「地方の時代」映像祭で優秀賞をいただくことができました。
担当の日笠昭彦先生をはじめ、ご指導にあたってくださった先生方、そして取材にご協力いただいた多くの方々に改めてお礼申し上げます。
この作品は「ベンチ」が題材ということで、全く動かないものをどうやって撮るか考えるところからスタートしました。そこで、排除ベンチにご見識のある芸術家の方々、公園の炊き出しで排除ベンチに座っていたホームレスの方、長年ホームレスの支援を行ってきた方など、実に様々な立場の方にインタビューを行いました。はじめはほとんど情報がない中で手探りの状態ではありましたが、次々と出てくる興味深い事実をもとに、何度も構成を練り直しながら作品を完成させることができました。
「地方の時代」映像祭を通して、作品を見てくださった方々からたくさんのコメントをいただきました。排除ベンチについて、まったくその意図に気がつかなかった、薄々気づいてはいたが気に留めていなかった、実際にベンチで寝ようとして挫折した経験があるなど、様々な反応があったことが印象に残っています。
この作品を通して、私たちが取材で得た気づきを少しでも多くの人に共有できたらと思っています。そしてそれが、私たちが普段見過ごしがちな「排除」というテーマについて少し立ち止まって考える機会になれば幸いです。

押野晃宏
この作品では、90年代から現代に至るまでの都市の「排除」の歴史を追っています。ひとたび排除が完了した場所では、それ以前はそこが「誰か」の居場所であったことが忘れられてしまうことを、(忘れてしまう前に)描こうとしました。
排除ベンチや都市開発をどう捉えるかは人それぞれだと思いますが、この作品を見ていただいた方が次に排除ベンチを見掛けたときは、そのアーキテクチャがどのような意図で置かれたのか、人の行動をどのように(無意識のうちに)制御しようとしているのか、そして、そこはもしかすると誰かの居場所だったかもしれないと、想像力を働かせることができるはずです。

小山このか
排除ベンチのドキュメンタリー制作において、ー番大切だと感じたことは、当事者との対話です。排除され不可視化されていくものは多くあるのにも関わらず、そのことに気付けない現状に危機感を抱きながらの取材でした。マイノリティの声が消されがちなこの社会で、私は問題を可視化できるドキュメンタリーの役割に希望を抱いています。

畑谷綾子
私自身、映像作品を制作するのは初めてでしたが、講義や経験豊富なメンバーとの話し合いを経て作品を完成させることができ、大変嬉しく思います。
取材を重ねるごとに構成を再検討し、作品をどう帰結させるかに頭を悩ませ、ドキュメンタリー制作の難しさを体感するとともに大きなやり甲斐も感じることができ、非常に貴重な経験となりました。