東京大学大学院 情報学環・学際情報学府 The University of Tokyo III / GSII

研究Research

September 20, 2019

【教員インタビュー】菅 豊 教授(前編)Interview with Professor SUGA, Yutaka (Part1)

フィールドに参加する民俗学、文化の担い手として文化を記述する
菅 豊 教授 (前編)

東洋文化研究所から流動教員として来られた菅先生に、闘牛(牛の角突き)と錦鯉をめぐる現在の研究とその手法について伺いました。

Folklore Engaged in the Field: Describing Culture from the Standpoint of a Culture Bearer
An Interview with Prof. SUGA, Yutaka (Part 1)

Professor Suga’s research has focused mainly on the relationship between animals and humans from the perspective of folklore studies, mainly in Japan and China. His current research focuses on two animals in particular: fighting bulls and colored carp (nishikigoi). Both these animals are found in the city of Ojiya in Niigata Prefecture, Japan. The traditional bullfighting (known in Japanese as “tsunotsuki”) held in Ojiya has been recognized as an “Important Intangible Folk Cultural Property” by the Japanese government. Having become concerned about the preservation of this folk tradition, Professor Suga decided to become himself the owner of a fighting bull. Meanwhile, the colorful carp originating in Ojiya have become the subject of growing international interest, with 80% of production now going overseas. These carp are appreciated as an art form by a world-wide network of enthusiasts. By examining this “art world” of the carp, one can gain insights into the concept of “beauty”. The internationalization of this art world also provides a way of considering the processes of cultural decontextualization and localization as carp expand beyond their original Japanese context and attain new meanings in other countries.

 

— 現在のご研究について教えてください。

日本と中国をフィールドに、動物と人間の関係をめぐる民俗学に取り組んでいます。動物と人間との関係性を通して、自然資源や文化資源の管理の問題や、儀礼や信仰、神話について考えてきました。いま対象としている動物は、ひとつが牛、もうひとつは錦鯉です。

牛は、新潟県小千谷(おぢや)市というところの闘牛を対象としています。現地では「牛の角突き」と言います。そこで天神という名前の非常に強い牛を持っていて、私自身も「牛持ち」として闘牛をやっています。「牛の角突き」は、国指定の重要無形民俗文化財。この文化資源の管理や維持に興味があります。維持されるにあたって、自分自身も参加しながら研究を進めています。

錦鯉の方も、同じ小千谷市。錦鯉は、もともと小千谷と隣の山古志という地域にまたがる二十村郷という場所で100年以上前にできたものです。変わった鯉が出てきてそれを残した地方の物好きから始まり、それがある時から流通し始め、大正時代の東京大正博覧会で知られるようになった。その後、高度成長期に爆発的に全国に広まって、さらにグロバーリゼーションの浸透とともに、いまや生産量の80%以上は海外輸出です。上海の玉仏寺にも錦鯉がいて、餌をやると功徳が叶うと言われています。日本人は、錦鯉は知っているけど、今はよほどの愛好家しか手は出さない。現在は中国系の人が多いですが、シンガポール、タイ、ベトナム、ラオスにも広がっています。去年、錦鯉の有力な業者のオークションが広島でありました。最高額はいくらだと思いますか?なんと2億300万円です!1匹に対してですよ。

— いつかは死んでしまうのに…!

消える芸術なんですね。絵画だったら一生残る。ところが、錦鯉が本当に美しくなるのは一瞬です。長ければ何10年も生きますが、当然、容姿というはだんだん変化してきて、色も褪せてくる。そこで一番のピーク時を競うわけです。錦鯉の世界には、「ZNA」という数10ヶ国にまたがる全世界組織があります。ZNAというのは、全日本愛鱗会(Zen Nippon Airinkai)という、日本語そのままの略。これが世界最大の愛好家団体で、いわゆる品評会をやります。中国では地方、市、国家レベルの後に中国大会を実施しています。さらにアジア大会も。日本では、毎年2月に全日本総合錦鯉品評会というのがあります。これが英語ではWorld Championshipといって、つまり、ここでの優勝者が世界チャンピオンということになる。こうした色々な楽しみ方があって、愛好家グループから地方、市、国、世界レベルまで重層的な広がりがあります。

— 錦鯉の文化について、研究としてどのように見られているのでしょうか?

ひとつは、「美」の問題です。錦鯉の美というのは、なかなか難しい。ふつうのアートもそうですが、素人が見てもきれいだと思うものがあるけれど、どうきれいかを説明するのはとても難しくて。アートの世界には「アート・ワールド」があるでしょ。作者や作家と、それを評価する人たち、審査員、美術評論家、学者、画商とか。それから、オーディエンスや消費者。絵画や彫刻の世界では、そういう人たちが総合的に評価の基準や体系みたいなものを持っている。そうしたアート・ワールドが錦鯉にもあって、その枠組みから錦鯉を通して「美」の問題を考えています。もうひとつは、トランスナショナリズムの問題。日本発の文化が、それぞれの国のなかで脱文脈化し、ローカライゼーションしていく。中国では、さっき言ったように玉仏寺で日本にはないような信仰の対象になっていったり。そこには、中国ではもともと魚が富の象徴だったという歴史もあるんですけどね。

後編へ続く)

企画:ウェブサイト&ニューズレター編集部
聞き手:鳥海希世子(特任助教)
写真:鈴木麻記(特任研究員)
文章構成・英文要約:潘夢斐(博士課程)
英文要約・校正:デイビッド・ビュースト(特任専門員)


主担当教員Associated Faculty Members

教授

菅 豊
  • 文化・人間情報学コース

Professor

SUGA, Yutaka
  • Cultural and human information studies course