東京大学大学院 情報学環・学際情報学府 The University of Tokyo III / GSII

研究Research

April 5, 2018

教員インタビュー 松山裕 教授 (前編)Interview with Professor MATSUYAMA, Yutaka (Part1)

医療をめぐるデータサイエンスの専門家育成を目指して
松山裕(MATSUYAMA, Yutaka) 教授(前編)

2018年度、情報学環学際情報学府に生物統計の実務家を養成する「生物統計情報学コース」が新設されました。生物統計家の役割や臨床研究のデザイン、情報学環との結びつきなどについて伺いました。

A new graduate school program called the “Biostatistics and Bioinformatics Course” started in April, 2018, with the aim of nurturing practitioners in biostatistics. The editorial team interviewed Professor Yutaka Matsuyama about the role of biostatistics specialists, design of clinical research, and the relationship between the new course and GSII/III. 
During the interview, Prof. Matsuyama clarified that biostatistics in the field of medical treatment deals with humans, which marks the most distinguishing difference from the other biostatistics in the areas of agriculture or fisheries science. Biostatistics specialists in medicine are expected to be acquainted not only with statistics but also with medical ethics. Communication skills are also greatly required. III/GSII is thus the perfect place to establish this interdisciplinary course and help train students to be qualified specialists in this field.
 (Continue to Part2)

ー 生物統計学について教えてください。
生物統計学というのは、そもそも農業や水産学も含めて、いわゆる生物を研究対象とする分野での統計学を指しています。そのなかで我々は医療を専門とします。アメリカでは、“Biostatistics”。イギリスでは“Medical statistics”と言って、この方が直接的で分かりやすいかもしれません。生物統計情報学コースでは、医療における応用統計学という意味で「生物統計学」を使っています。

ー 農業や水産業における生物統計学とは、どう違うのでしょうか?
違うというのは、やっぱり生きている人間を対象とするからなんですね。例えば、薬を飲んだ/飲まないという2つのグループがあって、それを比較して結果に差がでるかどうかを統計的に判断したい。でも、患者さんですから、飲んでくださいって言っても飲まない人もいるし、病院に来てくださいと言っても来ない人もいる。そうした時に、状態の悪い患者さんのほうが欠測データとなりがち、あるいは薬の服薬状況がよくないということが起きています。そのような現実の人間に対するデータから薬の効果を正しく評価するための統計解析方法はどのようなものがよいのか、できる限り質の高いデータを効率良く得るための研究デザインはどのようなものか、そういうことを考えたりしています。

あるいは、非常に難しい難病があって、その薬の効果があるかどうかというのは何をもって測れるのか。例えば、血圧が上がった下がったというのは分かりやすい数値になるじゃないですか。でも、難しい病気というのは、何をもって治ったのかが分からない時があるんです。なので、患者さん自身に状態を聞くわけですね。でも、それが本当にその病態をとらえているのかと言われると、また難しい話になる。そこが水産学とか農学とかと圧倒的に違うところです。

ー それはだいぶ違いますね。人間を相手にするということは。
もうひとつあるのが、我々はサイエンスというのと倫理の両輪を持たなければいけない、ということです。人間に対しては何をやってもいいっていうものではないですから。

ー 臨床試験のデザインをする、とはそういうことだったのですね。
そうなんです。ほとんどの人はデータをぽんと渡したら、僕らが何か解析した結果がくると思っている。でも我々からすると、そんないい加減なデータを解析しても結果なんかだめですよっていう。なのでデータを取る前から、デザインの段階から一緒に研究しましょう、ということですね。

ー 医学部ではなく、情報学環にできた経緯を教えてください。
色々検討しましたが、医学部のなかにつくった場合、受験生からするとやっぱりお医者さんになるというイメージを持ちやすいだろうと。我々がやっていることは、基本的にはデータサイエンスです。なので、バックグラウンドは文系でも理系でもかまわない。数字が好きだとか、医療に興味があるとか、そして何よりコミュニケーション能力がある人。人と喋るのが好きとかね。そうすると、医学部よりも情報学環だったんですね。

日本特有の事情もあります。つまり、日本には統計学科というのがほとんど存在しない。諸説ありますけど、各学部で持ちなさいということになっている。なので、統計をやっている人たちは、色々な学部にばらばらにいるわけです。

一方で医学部には、また特殊性がある。たまたまですけど、東京大学の医学部には、医学科と健康総合科学科という2つがあります。健康総合科学科は4年生コースで、そこに来る人は、3分の1くらいが看護師さん、3分の2くらいは、我々のような生物統計の人、それから医療倫理、精神保健、健康社会学。ヘルスワーカーのような人も含めて、やっぱりお医者さんでは出来ないアプローチは、健康問題の解決のためには必要なはずなんですね。それをやる学科がほとんど日本にはない。ただ東大には健康総合科学科があるので、医学部の中につくったら、その学科の人たちには、医学部のなかに生物統計のコースがあるというのは分かりやすいですけど、世間からみると、それは分かり難いでしょう。それに授業をしても、お医者さんもどんどん入ってくることになるので、なかなか生物統計の専門家を作れないと思ったんです。それならば、広く情報学のバックグラウンドの人といきましょう、と。

後編へ続く)

企画:ニューズレター&ウェブサイト編集部・大庭幸治(准教授)
聞き手・文章構成:鳥海希世子(特任助教)
英文要約:潘夢斐(博士課程)
英文校正:デイビッド・ビュースト(特任専門員)


主担当教員Associated Faculty Members

教授

松山 裕
  • 生物統計情報学コース

Professor

MATSUYAMA, Yutaka
  • Biostatistics and bioinformatics course