東京大学大学院 情報学環・学際情報学府 The University of Tokyo III / GSII

研究Research

September 23, 2016

教員インタビュー 佐倉統 学環長Interview with the Dean, Osamu Sakura

学環のこれまで・いま・これからについて

学環が2000年に出来てからもう15年が経ちました。いままでずっとできたばかりだから、新しいからと言って前ばかり向いてきたんですが、やはり15年はそれなりの年数で、卒業生も多くなりましたし定年退官された先生方もいます。この15年でやってきたことを総括して、どこがよかったのか、どこがわるかったのかを振り返り次につなげる時期なのかなと思います。そういう意味では学環の第二期、第二フェーズに移っていくところだととらえています。

いままで学際、文理越境という旗印でやってきて、その基本はかわらないのですが、これからは大きく二つの柱が必要だと思っています。まず国際化です。これは学環だけではなく日本の大学すべての課題かもしれません。もちろん個々の教員の方々は国際的に活動していますが、組織として、あるいはカリキュラムとしてどういうポリシーでやるのかということですね。国際化といっても単に英語で授業をしたり海外の教員を招聘したりということだけではなく、国際社会のなかできちんと自分の立ち位置を知って発言や行動ができる学生を育てることが大事だと思います。そのためには自分は何者かということを客観的に知らないといけないし、今の国際社会がどういう情勢になっているかを見る力も必要になります。そういうことを学び、研究活動を国際化していくにはどういうカリキュラムやプログラムが必要なのか、をきちんとしていきたいと考えています。

もうひとつは、個々の先生方のパフォーマンスは高いと思うので、学環という組織として、どういうふうに外から見えるのか、いわば看板を掲げることも必要だと思っています。個々の先生がやっている研究とはもちろん矛盾することではなくて、もう一段メタなレベルで何をするか。たとえば情報倫理の問題やシンギュラリティの問題など、社会的にも注目されている課題があります。情報技術と社会との関係が話題になっていて、興味も不安もあるし、あるいは次の産業の種もあるかもしれません。こういうことに取り組むのはまさに学際的なアプローチが必要で、学環は展望を示したり、実験したり、ということができる貴重な組織だと思うのですよ。これから10年後20年後の情報機械文明のありかたをさぐるということを学環の旗印にできたらいいと思います。

 

学環長の役割は

そういったなかでの学環長の役割ですが、それぞれの先生方のパフォーマンスは相当なものがあるので、学際的なシナジーを高めること、学環としてのアカデミックアイデンティティを確立することだと思っています。シンギュラリティやセキュリティなどのテーマでシンポジウムなども開催してみたいですね。

 

ご自身の研究について

科学技術社会論(science, technology and society; STS)を専門として研究しています。専門化した科学技術が進んでしまったときに、一般社会とのすりあわせをどうするのか、という問題意識を持っています。もともとは動物生態学でサルの研究をしていました。その分野だと、人間もサルも動物だし遺伝子的にも近いので、サルの行動から人間の行動を議論するというのは割りと当たり前だと思っていたんですね。ところが、少なくとも20〜30年ぐらい前だと社会学や文化人類学の人はそういう考えをとても批判するのですよ。ダーウィンといった瞬間に、生物学的決定論や遺伝的決定論はいけないとか。これはひとつにはヒトラーの人種差別政策に進化論や遺伝学が利用されていたことへの反省があったわけですが、そのあたりから、科学知識と社会文化との折り合いをどうするのか、というのは相当に重要な問題だと思い、そこに次第に興味が移ってきました。さきほどのシンギュラリティや情報倫理の問題などもまさに関連してくると思います。

 

学生へのアドバイス

情報学環に来る学生さんはバックグラウンドが多彩なのが素晴らしいですが、一方で専門を深めるというところでまだ足りないところがあるかもしれない。この二つを両立させるようになってほしいですね。特に、全体の中で自分の研究がどこに位置づけられるのか。修論などで先行研究との比較をちゃんとしろと指導されるのも、そこが大事だからですね。専門領域のなかで、あるいは科学全体、社会とのつながりのなかで自分の研究がどういう立ち位置にあるかを明確にしてほしいということです。そういう俯瞰的な、メタな視点をもってもらいたいと思いますので、それぞれの研究室で専門を深めると同時に、ぜひ他の領域の学生さんや先生とも積極的に交流してください。

 

ご自身の趣味など

クラシック音楽が好きで、学生時代はオーケストラでフルートを吹いてたんですよ。最近は演奏する時間はなかなかとれなくて聴く専門になっています。ストラヴィンスキー、ラヴェル、シベリウスあたりが好きですね。あとはイギリスの作曲家でディーリアスもよく聞きます。(ニューズレター『学環学府』No.45より再録)


主担当教員Associated Faculty Members

教授

佐倉 統
  • 文化・人間情報学コース
  • アジア情報社会コース

Professor

SAKURA, Osamu
  • Cultural and human information studies course
  • ITASIA program