趣旨

 安藤忠雄氏が設計された情報学環・福武ホールが完成して、約4年が経ちました。この建物は、狭く細い敷地を有効に使い、前面の壁の外から見たときには想像もできない深さと広がりのある空間を壁の内側に実現しています。この建物には、対話を誘発する仕掛けが幾重にも埋め込まれていて、たとえば1階にある学生と教員の学習・談話室は、前面がガラス張りで、日々、外側の庇の下を行き交う人々と目線が交わされています。地下2階にあるシアターも、ステージと客席の距離が近く、一体感を持ち易くなっています。

 まさにこの福武ホールで、第一線で活躍されている建築家や映像、音楽、デザイン、ジャーナリズムなどの諸分野で活躍されている方々と、東京大学の学生たちがじっくり対話する連続的な対話の試みを実現してみたいという提案が、情報学環・学際情報学府の大学院生たちから上がってきました。情報学環・学際情報学府というのは、東京大学の情報・コミュニケーション系を横断的に繋ごうと、2000年に設立された文理融合型の大学院組織です。現在、修士課程、博士課程、合計約350人の大学院生がここで学んでいます。その分野は、コンピュータ・サイエンスからメディア研究、ジャーナリズム研究などまで多岐にわたり、教員も、クセの強い実力者たちが集まっています。私たちは、このような異分野ごった煮(ジャングル)の世界からこそ、地殻変動を起こしつつある21世紀をサバイバルできる新しい学問の芽が生まれてくるはずだと信じています。

 そんな異分野の教員と学生の集まりである大学院情報学環・学際情報学府が、福武ホールという素晴らしい器を得て、この建築的に緊張感のある空間のなかで、学生たちがアートやデザイン、文化のフロントランナーたちと対話する。学生たちがパネリストにどんどん質問をして、普段ではなかなか聞けないところまで登壇者から本音や想いを引き出していく。もちろん、そこには幅広く東京大学や他大学の、特に建築に関心のある学生たちにも参加してもらう。これが、今回の連続企画の趣旨であると私は理解しております。

 これらのトークイベントは、けっしてステージ上の「著名人」の「お話」を一方的に聞くことを意図してはいません。この企画の最大のポイントは「対話」であり、この対話は客席と舞台の、つまり学生のみなさんからステージ上の方々への問いかけを含みます。そのような問いかけに触発されて、お招きした方々が現代の学生たちに何を語られるかが、この企画の最大の狙いです。そのためこのイベントでは、毎回の企画立案、コーディネーターや司会者を、すべて大学院博士課程の学生や助教といった若手の研究者が務めることになります。

 現在は大学激動の時代です。そのなかで、今、学生たち、大学院生や若手研究者と創造の世界の先端を走られている方々が、福武ホールの空間から力を得ながら何を対話できるのか――。そこに、何らかの大学の未来を垣間見ることができるかもしれません。

東京大学大学院情報学環教授
吉見 俊哉