東京大学大学院 情報学環・学際情報学府 The University of Tokyo III / GSII

教員 Faculty

教授

鶴田 啓

Professor

TSURUTA,Kei

  • 文化・人間情報学コース

研究テーマ

  • 歴史学とは何だろう
区分:
学環所属(基幹・流動職員)
  • Cultural and human information studies course

Research Theme

Position: 
III Faculty (Core & Mobile)
略歴

専門は日本近世史(江戸時代)、とくに近世の対外関係。1984年から東京大学史料編纂所で近世史料の研究・翻刻に従事。2016年から情報学環所属(流動教員)、文化・人間情報学コース担当。


■歴史学的方法の特徴

限られた字数のなかで歴史学の特徴を端的に表現するために、まず先学の著書の引用から始めたい。

①人文・社会の諸科学の研究における問題の第一歩が、自己自身がそのなかに含まれている文化や社会をどのように対象化するか、その対象化の仕方にあることは改めていうまでもない。(中井信彦『歴史学的方法の基準』22頁)

②自然・地理と先行する社会とを所与の条件として付与された人間が歴史を形成するのは、それらの諸条件を対象化するところに始まる。(同前、192頁)。

つまり、文化や社会を、(人間の社会的活動によって)存在し、推移し、変化するものとしてとらえる(対象化する)のが歴史学的方法の特徴であると言えるだろう。このとき、時間のスパンのとり方によってそれは現代史にも古代史にもなるし、空間的スパンのとり方によって、郷土史にも世界史にもなりうるだろう。

■スキルと着眼点

上に述べたように、歴史研究のスタート地点は、各人各様の問題関心であってかまわない。しかし「古典的」な学問である歴史学は、議論を組み立てて行く過程で、一定の手順やスキルを求めることもたしかである。それは主として、①史料解釈の正当性と、②先行研究の読み込み・評価である。もちろん研究を全体としてみるときには、③着眼点のユニークさや、④論文構成力といった要素も重要なので、①②がすべてということではない。

私の専門に近い分野で一例をあげてみよう。近年、雨森芳洲(あめのもりほうしゅう。1668-1755)について、江戸時代に日本と韓国との平等対等の関係・友好を追求した人物として紹介されることがある。しかし、こうした評価には違和感があり、問題関心のみの先行、もしくは芳洲の著作の「つまみ食い」ではないかと感じることさえある。雨森芳洲が関わったのは、対馬藩と朝鮮との関係であって、幕府と朝鮮政府との関係ではなかったし、何よりも藩の利益=貿易の継続を第一に考えて行動していた。『交隣提醒』を読んで行けば、そうした条件のなかでも、筋の通らない言動や小利を争う行為を戒め、朝鮮側の発言にはその背景を洞察して対処しようとするなど、合理的・良心的な対応を心がけた点に芳洲の真価があることが分かると思う。

(参考文献)

中井信彦『歴史学的方法の基準』(塙書房、1973年)

雨森芳洲『交隣提醒』(田代和生校注、平凡社東洋文庫、2014年)