東京大学大学院 情報学環・学際情報学府 The University of Tokyo III / GSII

教員 Faculty

講師

野村 尚吾

Lecturer

NOMURA, Shogo

  • 生物統計情報学コース

研究テーマ

  • がん臨床試験のデザインと解析
区分:
学内兼担・授業担当教員
  • Biostatistics and bioinformatics course

Research Theme

  • Design and analysis of cancer clinical trials
Position: 
Affiliated Faculty
略歴

東京理科大学大学院工学研究科経営工学専攻 博士後期課程 単位取得満期退学(2018年)、同大学院 同専攻 博士(工学) 取得(2020年)。国立がん研究センター 研究員/主任を経て、現在、東京大学大学院医学系研究科 生物統計情報学講座 特任講師

主要業績

https://scholar.google.co.jp/citations?hl=ja&user=oeRk6T8AAAAJ&view_op=list_works&sortby=pubdate

Biography

Shogo Nomura is a Project Lecturer at the Department of Biostatistics and Bioinformatics, Graduate School of Medicine, at the University of Tokyo. His main research area is design and analysis methods of cancer clinical trials. His current interest topics are multiple endpoints, group sequential designs, survival analyses, and causal inference. Prior to joining the University of Tokyo, he served as the Researcher / Chief at the Center for Research Administration and Support, National Cancer Center / the Clinical Research Support Office, National Cancer Center Hospital East. Dr. Nomura received his Ph.D. from the Graduate School of Engineering at Tokyo University of Science.


がん薬物療法の第Ⅲ相臨床試験では、対象患者を試験治療群(試験的な治療法を行う群)と標準治療群(標準的な治療法を行う群)とにランダムに割付ける試験デザインが頻用されます。主たる関心は「標準治療群に対して試験治療群の生存期間(臨床試験に登録されてから亡くなるまでの期間)が長いか」であり、ログランク検定やCox回帰といった生存時間解析手法が事前計画に基づき適用されます。

近年、がん領域では遺伝子異常やがん細胞の免疫回避機構に着目した新規薬剤を絡めた新規治療法の開発が盛んです。この種の治療法は、治療効果の予測に役立つバイオマーカー情報や延命以外の評価変数(例えば腫瘍が増大するまでの期間やQOLなど)を絡めた有効性評価が重要な場合が多く、デザイン・解析手法の両面で、数十年にわたり方法論の拡張が試みられてきました。たしかに、新しい方法論は一定の効率向上が期待できるものの、その代償として、追加の数学的仮定が必要・試験実施組織に過度な負荷がかかる等の課題があるため、試験結果を評価する専門家(規制当局や臨床論文の編集委員など)の反応が予見しがたい点に配慮し、適用が見送られてきた背景があります。しかし近年、開発コストの高騰を抑制するのに役立ちうる、効率的かつ革新的なデザイン・解析手法に高い関心が寄せられています。例えば米国では新規デザイン・解析手法を積極的に臨床試験に利活用する動きがあり、参考となるガイダンスが複数公表されるに至っています。当研究室では、こういったがん臨床試験を取り巻く環境変化に影響を与えうる革新的なデザイン・解析手法の統計的性質の探求や実践上の課題解決に取り組んでいます。以下に代表的な研究テーマを挙げます。

<中間変数を用いたデザイン・解析手法>
がん領域の第Ⅲ相試験では、試験治療の有効性・無益性に基づく試験中止を中間解析で評価することが一般的です。伝統的な中間解析の方法論は用いる評価変数が単一であることを前提としますが、この枠組みは時に非効率です。生存期間の結果をより早期に予測可能な中間変数(例えば、がん細胞が増大するまでの期間など)と生存期間の両者を絡めた評価により、臨床試験を効率化する方法論の開発に取り組んでいます。

<Restricted mean survival timeを用いたデザイン・解析手法>
代表的な生存時間解析手法であるログランク検定・Cox回帰は治療効果が遅れて認められる状況やイベント数が極端に少ない状況で効率が低下し、解析結果の臨床的な解釈が困難になります。Restricted mean survival timeに代表される新しい生存時間解析手法を用いたデザイン・解析手法の提案や適用上の課題整理を目的とした研究に取り組んでいます。

当研究室では、上記のテーマ以外に、規制当局の審査官や論文の編集委員等が参照する種々の規制やガイドラインの潜在的な課題抽出を目的とした研究も行っています。例えば、電子カルテや疾患レジストリといった臨床試験以外の環境下で集められたリアルワールドデータを利活用する上での課題や希少がんに対する臨床試験の課題の抽出や対処策の検討に取り組んでいます。以上は実際の臨床研究データを題材にしています。皆さんが将来活躍する臨床開発の現場は、生物統計家がダイナミックに臨床上の課題解決や意思決定に寄与できる興味深い研究テーマに溢れています。是非、一緒にがん治療への貢献を目指しましょう。