東京大学大学院 情報学環・学際情報学府 The University of Tokyo III / GSII

教員 Faculty

准教授

開沼 博

Associate Professor

KAINUMA, Hiroshi

  • 社会情報学コース

研究テーマ

  • フィールド研究、現代社会論
  • 福島学(3.11後の福島の復興・廃炉研究)、地域・メディア・科学技術の社会科学
区分:
学環所属(基幹・流動教員)
  • Socio-information and communication studies course

Research Theme

Position: 
III Faculty (Core & Mobile)
略歴

1984年福島県生まれ。東京大学文学部卒。同大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。立命館大学准教授等を経て2021年4月より現職。他に、東日本大震災・原子力災害伝承館上級研究員、ふくしまFM番組審議会委員、東日本国際大学客員教授。


 これまでの大きく3つの切り口で研究を進めてきました。
 一つ目は、大規模災害についての歴史的考察です。その対象の中心には3.11において震災・原発事故を経験した被災地・福島があり、例えば、福島への原発立地の経緯と3.11に至るまでの人々の心理や社会構造、そこに見られる中央―地方関係の日本近代化への位置づけを追い、地域と科学技術・環境・メディア等様々な領域が交差する地点の変遷を追いました。他にも、交通(東京と福島・浜通りとをつなぐ線路・常磐線の上で繰り広げられた戦前から戦後に至る産業構造の転換や地域開発の歴史)、スポーツ(1997年に開設され日韓ワールドカップ等を経て3.11後は原発復旧の最前線基地となったサッカーナショナルトレーニングセンター「Jヴィレッジ」とそれを取り巻く人々と地域社会の歩み)など、より広く領域を横断しながら、3.11後はもちろん、それ以前からの福島と日本社会、そこに生きた人々の心理を理解する上で不可欠な歴史的背景を探求してきました。
 二つ目は、被災地・被災者が抱える課題の抽出とそのメカニズムの解明を目指した学際的研究です。例えば、『はじめての福島学』(イースト・プレス)とそれを引き継ぐ研究の中では、人口、農林水産業、観光、復興政策、雇用、家族、イノベーションといった分野を横断しながら、定量的分析を組み合わせ、大規模災害後の福島の実態を考察しました。この中では、地域の課題を抽出し、リスク認識の差、誤解・誤情報等の中で発生する経済的損失や認知バイアスに着目し、SNSの急速な普及等メディア環境の変化を背景として増幅するステレオタイプやエコーチェンバーといった現象を、災害と情報と社会・心理の結節点に存在する問題として検討してきました。
 また、編者をつとめた『福島第一原発廃炉図鑑』(太田出版)では福島第一原発の廃炉という一見、自然科学・工学的な対象を、社会科学的対象として見つめ直し、そこで働く人々、関わる研究者、政治・行政、周辺地域の復興に関わる住民や外国人、廃炉を描いた漫画やメディア上の情報といった多様なアクター・資料の実状を分析しました。
 三つ目は、貧困や情報化、グローバル化といったテーマを横断しながらの現代社会論です。『漂白される社会』(ダイヤモンド社)ではジョック・ヤングの「過剰包摂」論などを参照しながら繁華街や若者が集うシェアハウスなどを対象とした分析を進めました。また『日本の盲点』(PHP研究所)では政治・経済・文化的なより広範な対象について、中道・知識・外部をキーワードに分析を進めました。
 いずれにも共通するのが、フィールド研究を軸においていることです。これはいわゆるフィールドワークはもちろんですが、フィールドを立体的に見たり、かつてそこに存在したもの、これから存在しうるものを想像したりするための歴史的、質的・量的分析を組み合わせた方法論と言えます。
 
 進学を希望する方々については、テーマ・学問分野を問わず、また理論的か実践的かを問わず受け入れています。とりわけ、何らかのフィールド(必ずしも現存する物理的な場所という意味ではなく、より広義のものです。職場でも趣味の集いでも良いし、オンラインコミュニティでも、歴史的な空間でも)を対象にしていれば、研究を深められる可能性はより高いと思います。