東京大学大学院 情報学環・学際情報学府 The University of Tokyo III / GSII

教員 Faculty

准教授

池亀 彩

Associate Professor

IKEGAME, Aya

  • アジア情報社会コース

研究テーマ

  • 主権の人類学・南アジアの宗教と政治・差別の比較研究
区分:
学環所属(基幹・流動職員)
所属:
東洋文化研究所 新世代アジア研究部門
  • ITASIA program

Research Theme

Position: 
III Faculty (Core & Mobile)
略歴

1995年 早稲田大学理工学研究科建設工学専攻 修士課程修了
1997年 ルーヴェン大学歴史的都市と建造物保存修復センター 修士課程修了
2001年 京都大学大学院人間・環境学研究科文化人類学 博士課程単位取得退学
2001年 日本学術振興会特別研究員(PD)
2007年 エディンバラ大学社会政治学研究科 博士号取得(社会人類学)
エディンバラ大学、国立民族学博物館、オープン・ユニヴァーシティなどを経て2015年4月より現職。

主要業績

著作:
2012 Princely India Re-Imagined: a historical anthropology of princely Mysore from 1799 to the present, London: Routledge
2012 The Guru in South Asia: New Interdisciplinary Perspectives (co-edited with Jacob Copeman), London: Routledge
2009 Princely Spaces and Domestic Voices: new perspectives on the Indian princely states (co-edited with Andrea Major), Indian Economic and Social History Review, 46 (3)

論文など:
2015 ‘‘Time Gentlemen’: Bangalore and its drinking cultures’ (co- authored with Crispin Bates) in C. Bates and M. Mio (eds), The City in South Asia
2015 ‘Overlapping Sovereignties: Gurus and Citizenship’, in E. Isin (ed.), Citizenship after Orientalism, Palgrave.
2015 「グル」、三尾稔・杉本良男編『現代インド6:還流する文化と宗教』、叢書『現代インド』シリーズ第6巻、276−280頁、東京大学出版会。
2015 「新たな宗教指導者(グル)を訪ね歩く」、宮本久義・小西公大編『インドを旅する55章』、明石書店。
2014 「非西欧社会のナショナリズム」、『世界民族百科事典』 64−65頁、丸善。
2013 ‘Karnataka: Caste, Dominance and Social Change’, in P. Berger and F. Heidemann (eds.) The Modern Anthropology of India: A Reader, London: Routledge, pp. 121-135.
2012 ‘Guru logics’ (co-authored with Jacob Copeman), HAU: Journal of Ethnographic Theory 2 (1): 289-336.
2012 ‘Mathas, gurus and citizenship: the state and communities in colonial India’, Citizenship Studies, special edition ‘Citizenship after Orientalism’, 16 (5-6): 689-703.
2011「グル・ガバナンス:南インドの宗教リーダーに関する政治人類学的研究」『社会人類学年報』第37巻、87-111頁、弘文堂。
2010 ‘Why Do Backward Castes Need Their Own Gurus? The social and political significance of new caste-based monasteries in Karnataka’, Contemporary South Asia, 18 (1): 57-70.
2009 ‘Space of Kinship, Space of Empire: marriage strategies amongst the Mysore royals in the 19th and 20th centuries’, Indian Economic and Social History Review, 46 (3): 343-372.
2007 ‘The capital of Rajadharma: modern space and religion in colonial Mysore’, International Journal of Asian Studies, 4: 15-44.
2002 「パリ・インドシナ美術館―ムラージュと回復される時間」山路勝彦、田中雅一編『植民地主義と人類学』、関西学院大学出版会、391-412頁。


①インドのグルたち
私が研究のフィールドとしているのは南インドのカルナータカ州です。もともと植民地時代のマイソール藩王国(現在のカルナータカ州南部)に関する研究をしていました。ある日マイソール王家の当主を追いかけていましたら、彼が農耕カーストのグルに金の王冠を授ける儀礼に出くわしました。マハラジャから王冠をもらうグルとは一体何者なのか。俄然興味が出てきて、今度はグルたちを追いかける調査をはじめたのです。日本でグルというとちょっと神秘的でおっかない存在と思われるかもしれません。あるいはサッティヤ・サイババのように世界に信者を持つ、巨大グルを思い浮かべる方もいるでしょう。でも南インドで出会うグルたちは、無料の学校や病院を経営し、信者たちの揉め事を解決し、村の生活環境をよくするために役人たちに電話をかけまくる、ごく普通の人々でした。
②主権の人類学
インドには、国家による社会的サービスが届かない人々が大勢います。蔓延する汚職も人々が国からの援助を受ける際にハードルとなります。グルたちは国がすべき役割をいわば肩代りしているともいえるのです。西洋の政治理論は、人々は社会の平安を保つために自らの権利を一部放棄して絶対的な「主権」(ソブリン)を構築するといいます。ソブリンは怪物のように強大で時に手にあまるものであるが、必要なものだとされます。近代国家は一定の領域内で暴力を独占し、他の国から独立した絶対的な権力です。個人と国家の中間で、国家以外に権力や暴力をふるう存在は認められません。でも最近の人類学の分野では、法的にはグレーな領域で人々に社会的サービスを提供するマフィアやギャング、ビッグマンなどをソブリンとみなす研究がなされています。インドのグルたちも人々の生活に不可欠なまさに「小さな怪物」なのです。
③差別とグル、民主主義とグル
世襲制の司祭とは異なり、グルたちは様々な社会階層から現れます。インドのカースト社会の最下層に位置づけられてきたダリト(旧不可触民)のコミュニティーからもグルは誕生しています。ヒンドゥー教は浄・不浄の観念からダリト差別を容認してきました。しかしダリトのグルたちはダリト独自の宗教を求め、またその希求をさまざまな社会運動へとつなげています。
従来の民主主義の考え方では、グルのような宗教リーダーは世俗主義に反した存在です。しかし南インドのグルたちは、人々から信頼・信仰を委ねられ、人々の生活を良くするために働いています。またグルたちは信者を組織し、政治的主体性を鼓舞します。インドのグルたちは民主主義の定義自体を考え直す契機を私たちに与えてくれているように思うのです。

1:鉱山会社と村人の争いを仲裁するグル

ikegame01_鉱山会社と村人の争いを仲裁するグル

2:土地権の回復を訴えるダリト神学の信者の行進

ikegame02_土地権の回復を訴えるダリト神学の信者の行進